コラム

2025.09.09

粉瘤を放置するリスクと早期治療のメリット

粉瘤とは?基本的な知識を解説

皮膚にできるしこりや膨らみの中でも、粉瘤(ふんりゅう)は比較的よく見られる皮膚疾患です。粉瘤は表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)とも呼ばれ、皮膚の下に袋状の構造ができて、その中に角質や皮脂が溜まることで形成される良性の腫瘍です。

粉瘤の特徴として、中央に小さな黒点(ヘソ)が見られることが多く、ここから白い粥状の内容物が排出されることがあります。この内容物は脂肪ではなく、垢(角質)のカタマリなのです。

粉瘤は年齢や性別に関係なく誰にでもできる可能性があり、全身のどこにでも発生します。特に顔、首、背中、耳の後ろなどの皮脂腺が多い部位にできやすい傾向があります。

なぜ粉瘤ができるのでしょうか?

粉瘤の明確な原因は完全には解明されていませんが、外傷や毛穴の閉塞によって表皮細胞が皮膚内部に取り込まれ、増殖することで形成されると考えられています。本来なら垢となって剥がれ落ちるはずの表皮細胞が、袋の外に出られずに蓄積され、徐々に大きくなっていくのです。

粉瘤を放置するとどうなる?主なリスク

「小さな粉瘤だから大丈夫」と放置してしまう方は少なくありません。しかし、粉瘤は自然に治ることがほとんどなく、放置すると様々なリスクが生じます。

粉瘤を放置した場合に起こりうる主なリスクを詳しく見ていきましょう。

徐々に大きくなる

粉瘤の中身である角質や皮脂は、袋の外に自然に排出されることがないため、放置すると少しずつ大きくなっていきます。初期は小さなしこりでも、時間の経過とともに成長し、野球ボール大になることもあるのです。

特に顔や首など、人目につきやすい部位にできた粉瘤が大きくなると、見た目の問題も生じてきます。自分の外見に自信を持てなくなったり、人目が気になったりするなど、精神的な負担も増えていくでしょう。

炎症を起こす(炎症性粉瘤)

粉瘤に炎症が生じると、表面が赤くなり、痛みを伴うようになります。これが炎症性粉瘤です。炎症が進行すると、赤みが拡大し、痛みも強くなります。

炎症を起こした粉瘤は、袋の内容物が膿となってブヨブヨとした感触になることもあります。腫れが限界に達すると、粉瘤が破裂して臭いドロドロの内容物が排出される場合もあるのです。

さらに、炎症に細菌感染が加わると症状は悪化し、強い痛みや腫れが生じます。このような状態になると、日常生活に支障をきたすだけでなく、緊急の切開処置が必要になることもあります。

あなたは粉瘤の炎症に悩まされたことがありますか?

悪性化するリスク

粉瘤は基本的に良性の腫瘍ですが、経過が非常に長く、大きかったり、炎症を繰り返したりした場合、ごくまれに悪性化したという報告もあります。

特に、中高年の男性の頭部、顔面、臀部の大きな粉瘤が急速に大きくなったり、表面の皮膚に傷ができたりした場合には注意が必要です。悪性化のリスクは低いものの、完全には否定できないということを覚えておきましょう。

粉瘤の早期治療がもたらすメリット

粉瘤は放置せず、早期に適切な治療を受けることで様々なメリットがあります。小さなうちに治療することで、手術の負担も少なく、回復も早くなります。

粉瘤の早期治療がもたらす主なメリットを見ていきましょう。

簡単な手術で治療できる

粉瘤が小さいうちであれば、比較的簡単な手術で治療することができます。小さな粉瘤の場合、手術時間は約5分程度と非常に短時間で済むことも多いのです。

早期の治療では、最小限の切開で済むため、患者さんへの身体的負担が軽減されます。また、小さな粉瘤であれば、くり抜き法という特殊な器具を用いた治療法も選択肢となります。

くり抜き法は、粉瘤に小さな穴をあけ、内容物を排出した後に袋を抜き取る方法です。傷口が小さく済み、手術時間も短いというメリットがあります。

一方、粉瘤が大きくなってからの治療では、切開法という方法が必要になることが多くなります。切開法では傷口が比較的大きくなる可能性があり、手術時間も長くなります。

手術痕が残りにくい

粉瘤が小さいうちに治療を行うことで、切開の範囲を最小限に抑えることができます。その結果、術後の傷跡が目立ちにくくなるというメリットがあります。

特に顔や首など、外見上重要な部位に粉瘤ができた場合には、早期治療によって美容面での影響を最小限に抑えることができます。これは、日常生活や社会活動において大きなメリットとなるでしょう。

粉瘤が大きくなってから摘出すると、どうしても傷跡が目立ちやすくなります。早期治療は見た目の観点からも非常に重要なのです。

再発予防になる

粉瘤を早期に治療することで、嚢胞を完全に除去することが可能となり、再発のリスクを大幅に減少させることができます。

炎症を起こした粉瘤は、袋が破れて内容物が周囲に漏れ出している可能性があります。このような状態では、完全に袋を取り除くことが難しくなり、再発のリスクが高まります。

早期治療を行うことで、これらの合併症を未然に防ぎ、粉瘤の完全除去がより確実になります。結果として、再発の可能性を最小限に抑えることができるのです。

粉瘤の治療方法と選択肢

粉瘤の治療には、主に「くり抜き法」と「切開法」という2つの方法があります。それぞれの特徴を理解し、自分の状態に合った治療法を選ぶことが大切です。

ここでは、粉瘤の主な治療方法について詳しく解説します。

くり抜き法

くり抜き法は、特殊な器具(デルマパンチ)を用いて粉瘤に小さな穴をあけ、その穴から粉瘤の内容物を絞り出した後、しぼんだ粉瘤の袋を抜き取る方法です。

この方法のメリットは、傷口が小さく済むため、手術時間が短く、術後の回復も早い点です。特に小さな粉瘤であれば、手術時間は約5分程度と非常に短時間で行うことができます。また、傷跡が目立ちにくいという利点もあります。

ただし、くり抜き法にはデメリットもあります。粉瘤の袋を完全に取り除けない可能性があり、その場合は再発のリスクが高まります。また、大きな粉瘤や炎症を起こしている粉瘤には適さない場合があります。

切開法

切開法は、粉瘤が大きい場合や複雑な形状をしている場合に適用される治療法です。この手術では、粉瘤の部位を切開して内部の内容物を取り除き、続いて粉瘤の袋(嚢胞)を完全に摘出します。

切開法は、特に炎症が進行しているケースや、再発を防ぐために確実に粉瘤を除去する必要がある場合に選択されることが多い治療方法です。

この方法では、傷口が比較的大きくなる可能性がありますが、袋を完全に除去することで再発のリスクを大幅に低減できます。また、大きな粉瘤や複雑な形状の粉瘤にも対応できるというメリットがあります。

炎症性粉瘤の治療

炎症を起こして膿がたまってしまった炎症性粉瘤に対しては、まず切開排膿という処置が必要になることがあります。これは、皮膚を切開して、たまっている膿を排出する処置です。

炎症が強くなり膿がたまってしまった状態では、膿を物理的に取り除かない限り炎症の改善が見込めません。切開排膿は局所麻酔で行いますが、切開部分は縫わずに開放したままにします。

切開排膿はあくまで応急処置であり、炎症が落ち着いた後に改めて粉瘤の摘出手術を行うことになります。そのため、感染のない場合に比べ治療期間が長くなります。

診察

粉瘤の予防と日常生活での注意点

粉瘤の原因が明確に分かっていないため、確実な予防方法も確立されていません。しかし、日常生活での注意点を守ることで、粉瘤のリスクを減らせる可能性があります。

ここでは、粉瘤の予防と日常生活での注意点について解説します。

清潔な肌を保つ

粉瘤は皮下に角質や皮脂が溜まったものであるため、毎日お風呂に入って肌を清潔に保つことは大切です。特に、皮脂腺が多い顔や首、背中などは丁寧に洗いましょう。

ただし、過剰な洗浄や強いこすり洗いは肌を傷つけ、かえって皮膚トラブルの原因になることもあります。適切な洗浄料を使い、優しく洗うことを心がけましょう。

粉瘤を見つけたら早めに受診

皮膚にしこりを見つけたら、それが粉瘤かどうかにかかわらず、早めに皮膚科や形成外科を受診することをおすすめします。早期発見・早期治療が、治療の負担を軽減し、合併症のリスクを減らす鍵となります。

「ニキビだから大丈夫」と自己判断せず、医師の診断を受けることが大切です。特に、しこりが徐々に大きくなっている場合や、赤みや痛みがある場合は、すぐに受診しましょう。

粉瘤を自分で潰さない

粉瘤を自分で潰そうとすると、感染のリスクが高まり、炎症が悪化する可能性があります。また、袋を完全に取り除くことができないため、再発の原因にもなります。

粉瘤を見つけたら、決して自分で潰さず、専門医の診察を受けましょう。適切な治療を受けることで、安全かつ確実に粉瘤を取り除くことができます。

まとめ:粉瘤の早期治療で健やかな肌を保とう

粉瘤は放置すると徐々に大きくなり、炎症を起こすリスクが高まります。炎症を起こすと痛みを伴い、日常生活に支障をきたす可能性もあります。また、まれに悪性化するリスクもあります。

一方、早期に治療することで、簡単な手術で済み、手術痕も残りにくく、再発のリスクも低減できるというメリットがあります。粉瘤の治療には主に「くり抜き法」と「切開法」があり、粉瘤の大きさや状態に応じて適切な方法が選択されます。

皮膚にしこりを見つけたら、自己判断せず、早めに専門医を受診することが大切です。適切な診断と治療を受けることで、健やかな肌を保つことができるでしょう。

当院では、消化器内科・内視鏡専門医である院長が診察を担当し、患者様一人ひとりに合わせた丁寧な診療を心がけています。皮膚のお悩みも含め、どんな小さなことでもお気軽にご相談ください。

詳しい情報や予約については、石川消化器内科・内視鏡クリニックの公式サイトをご覧ください。皆様の健康をサポートするために、誠心誠意対応させていただきます。

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.21

粉瘤は自宅ケアで改善できる?医師が教える真実

粉瘤とは?皮膚の下に潜む袋状の腫瘤

皮膚の下にできる小さなしこり。気づいたときには少し大きくなっていて、触ると硬く、時に痛みを感じることもある。これが「粉瘤(ふんりゅう)」と呼ばれる皮膚のできものです。

粉瘤は医学的には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」または「アテローム」とも呼ばれ、皮膚の下に袋状の構造ができ、その中に皮脂や角質(垢)が溜まることで形成される良性の腫瘍です。

この袋の中には、皮脂腺からの分泌物や垢が溜まっているため、万が一袋が破けると、チーズと汗が混じったような強烈な臭いがすることもあります。中からは白いクリームのような液体や、カッテージチーズのようなボロボロしたものが出てくることが特徴です。

粉瘤は全身どこにでもできる可能性がありますが、特に皮脂腺が多い顔、首、背中、耳の後ろなどにできやすい傾向があります。サイズは数ミリから数センチまでさまざまで、放置すると徐々に大きくなることが多いです。

通常は痛みを伴わないことが多いですが、感染すると赤く腫れて痛みやかゆみを伴うことがあります。このような状態になると、中に溜まった内容物がにじみ出たり、破裂したりすることもあるのです。

アレルギーの方のピロリ菌の除菌治療について

粉瘤の原因と発生メカニズム

なぜ粉瘤ができるのか、その原因について詳しく見ていきましょう。粉瘤の発生には複数の要因が関わっています。

まず最も一般的な原因は「毛穴の詰まり」です。私たちの皮膚には皮脂を分泌する皮脂腺が存在し、通常は毛穴を通して皮脂が排出されます。しかし、何らかの理由で毛穴が詰まると、皮脂が排出されずに皮膚の中に溜まり、それをきっかけとして粉瘤が形成されるのです。

次に「皮膚の摩擦や刺激」も原因となります。衣服などで摩擦や圧力など刺激が多くなる部分は、皮膚にダメージを受けやすく、粉瘤が発生しやすいと言われています。首、背中、顔などは粉瘤ができやすい部位です。

また、「感染や炎症の影響」も見逃せません。ニキビや皮膚の炎症が悪化し、皮膚の中で角質が異常に分泌されてしまうことがあります。この角質が嚢胞内にたまり、粉瘤の原因となることがあるのです。

「ホルモンバランスの乱れ」も関係しています。思春期やストレス、ホルモンの変化によって皮脂の分泌が増えると、毛穴が詰まりやすくなり、粉瘤ができるリスクが高まります。

さらに、「先天的な要因」も考えられます。一部の粉瘤は遺伝的な要因や先天的な皮膚の構造により、幼少期から形成されやすいとされています。生まれつき皮脂腺が詰まりやすい傾向にある人は粉瘤ができやすいことがあります。

粉瘤は男性に多く見られ、特に20歳から60歳の間で発症することが多いことがわかっています。これは、皮脂腺からの分泌が盛んに行われ、新陳代謝が活発な時期であることが関係していると考えられます。

自宅でできる粉瘤のケア方法

「粉瘤は自宅でケアできるのか?」これは多くの方が抱く疑問です。結論から言うと、粉瘤を完全に治すには医療機関での適切な処置が必要ですが、症状を悪化させないための自宅ケアは可能です。

軽度の粉瘤で炎症や痛みが少ない場合には、自宅ケアを取り入れることで症状が悪化するのを防ぐことができます。ただし、これらのケアは「治療」ではなく「悪化防止」のためのものであることを理解しておきましょう。

清潔に保つ

粉瘤ができた部分は、これ以上毛穴詰まりを防ぐために清潔に保つことが大切です。優しく洗い、汗や汚れをためないようにしましょう。

刺激の強い石鹸や洗顔料は避け、敏感肌用の製品などを使用するのがおすすめです。ゴシゴシと強くこすると炎症を悪化させる可能性があるので、優しく丁寧に洗うことを心がけてください。

保湿ケア

乾燥した肌は皮脂の分泌が活発になりやすいため、適度な保湿を心がけます。特に顔や首のような皮膚が薄い部分は、保湿クリームを使ってケアするとよいでしょう。

ただし、油分の多すぎる製品は毛穴を詰まらせる原因になることがあるため、「ノンコメドジェニック」(毛穴を詰まらせない)と表示された製品を選ぶことをお勧めします。

刺激を避ける

粉瘤を無理に押し出したり、触ったりすることは絶対に避けましょう。圧迫や刺激により炎症が悪化し、感染や膿が溜まってしまう場合があるからです。

また、粉瘤のある部分を強く擦ったり、きつい衣類で圧迫したりすることも避けるべきです。特に首や背中など、衣類が擦れやすい部分にある粉瘤は注意が必要です。

これらの自宅ケアを行っても症状が軽減しない場合や、痛みや腫れが強くなった場合には、すぐに医療機関を受診しましょう。自己判断での対処には限界があります。

粉瘤に対する医療機関での治療法

自宅ケアには限界があり、粉瘤を根本的に治すためには医療機関での適切な治療が必要です。粉瘤が大きくなったり、炎症や膿がある場合には、特に医療機関での治療が重要になります。

ここでは、医療機関で行われる主な治療法について解説します。

切開排膿

粉瘤が炎症を起こし膿が溜まっている場合には、切開して排膿します。局所麻酔を用いて切開し、膿を排出して炎症を和らげます。

ただし、この治療法は一時的なもので、嚢胞自体が残っている場合には再発の可能性があります。切開排膿は応急処置的な治療であり、約3ヶ月後に粉瘤の芯が残っていないかを確認し、改めて袋ごと完全に除去することが重要です。

腫瘍摘出手術

再発を防ぐためには、嚢胞(袋状の部分)を完全に取り除くことが大切です。局所麻酔のもと、皮膚を切開して嚢胞を取り出す手術を行います。嚢胞を取り除くことで、粉瘤の再発リスクが軽減されます。

手術方法には主に「くり抜き法」と「切除縫縮法」があります。

くり抜き法は、皮膚の下にできた粉瘤(嚢胞)を完全に除去する手術です。通常は局所麻酔を使用し、専用のパンチを用いて粉瘤を慎重にくり抜き、嚢胞の袋ごと除去します。傷跡が目立ちにくいというメリットがありますが、完全に袋を取り除けない場合は再発のリスクがあります。

一方、切除縫縮法は粉瘤の標準的な治療法です。通常は局所麻酔を使用し、患部の大きさや深さ・種類に応じて切除範囲を決定し、中央の毛穴を含んだ皮膚を葉っぱの形に切り取り摘出します。確実に袋を取り除けるため再発のリスクが低いですが、粉瘤の大きさによっては同じ長さの線の傷跡が残る場合もあります。

レーザー治療

レーザーを使って嚢胞を取り除く治療法も限定的ですが、効果的な場合があります。切開手術よりも傷跡が小さくなりますが、粉瘤の状態や大きさによってはレーザー治療をできないこともあります。また保険は適用されません。

どの治療法が最適かは、粉瘤の大きさや状態、場所によって異なります。医師とよく相談し、適切な治療を選択することが大切です。

粉瘤の再発を防ぐための予防法

粉瘤は一度治療しても、正しいケアができていなければ再発しやすい皮膚トラブルです。ここでは、粉瘤を繰り返さないための予防法について解説します。

1. 皮膚を清潔に保つ

毎日のシャワーや入浴で皮膚を清潔に保ちましょう。特に汗をかきやすい部位や皮脂の分泌が多い部位は丁寧に洗い、皮脂や汚れが毛穴に詰まるのを防ぎます。

ただし、ゴシゴシと強くこすると皮膚を傷つけ、かえって炎症を引き起こす可能性があります。優しく丁寧に洗うことを心がけてください。

2. 適切な保湿を心がける

乾燥した肌は皮脂の過剰分泌を促し、毛穴詰まりの原因になります。適切な保湿ケアを行い、肌の水分バランスを整えましょう。

特に季節の変わり目や冬場など、肌が乾燥しやすい時期は入念な保湿が大切です。ただし、油分の多すぎる製品は避け、「ノンコメドジェニック」表示のある製品を選びましょう。

3. 摩擦や圧迫を避ける

きつい衣類や首回りがきつい服は、皮膚への摩擦や圧迫を増やし、粉瘤の原因になることがあります。特に粉瘤ができやすい首や背中などは、ゆったりとした服を選び、摩擦や圧迫を減らしましょう。

また、長時間同じ姿勢でいることも特定の部位への圧迫につながります。定期的に姿勢を変えたり、ストレッチをしたりして、血行を促進させることも大切です。

4. 規則正しい生活とバランスの良い食事

不規則な生活習慣やストレスは、ホルモンバランスを乱し、皮脂の過剰分泌を引き起こすことがあります。規則正しい生活と十分な睡眠を心がけましょう。

また、脂っこい食事や糖分の多い食事は皮脂分泌を増やす可能性があります。野菜や果物、良質なタンパク質を中心としたバランスの良い食事を心がけることも、肌の健康維持には重要です。

5. 定期的な皮膚チェック

小さな粉瘤は自覚症状がないことも多いため、定期的に皮膚の状態をチェックしましょう。早期発見できれば、小さいうちに適切な処置を受けることができます。

特に以前粉瘤ができたことがある部位は、再発の可能性があるため、注意深く観察することが大切です。何か気になる変化があれば、早めに皮膚科を受診しましょう。

粉瘤に関する誤解と真実

粉瘤に関しては、さまざまな誤解や間違った情報が広まっていることがあります。ここでは、よくある誤解と真実について解説します。

誤解1:「粉瘤は自分で潰せば治る」

粉瘤を自分で潰すことは絶対にやめましょう。確かに内容物を出すことはできますが、袋(嚢胞壁)が残っていれば再発します。また、不適切な処置による感染リスクもあります。

真実は、粉瘤を根本的に治すには、医療機関で袋ごと完全に摘出する必要があります。自己処置では完治せず、かえって症状を悪化させる可能性があるのです。

誤解2:「粉瘤はすべて同じ」

粉瘤にはさまざまな種類や状態があります。大きさ、場所、炎症の有無などによって、適切な治療法も異なります。

真実は、粉瘤の状態に応じた適切な治療が必要です。小さな粉瘤と大きな粉瘤、炎症を起こしている粉瘤と起こしていない粉瘤では、治療アプローチが異なります。医師の診断に基づいた治療を受けることが大切です。

誤解3:「粉瘤は必ず手術が必要」

小さく、症状がない粉瘤の場合、必ずしも即座に手術が必要というわけではありません。医師と相談の上、経過観察という選択肢もあります。

真実は、粉瘤の大きさ、場所、症状の有無によって、治療の緊急性や必要性が変わります。ただし、完全に治すためには最終的には手術が必要になることが多いです。

誤解4:「粉瘤は美容の問題だけ」

粉瘤は単なる見た目の問題ではありません。放置すると大きくなったり、炎症を起こしたりする可能性があります。

真実は、粉瘤は医学的な皮膚疾患であり、適切な治療が必要です。特に炎症を起こした場合は痛みを伴い、日常生活に支障をきたすこともあります。健康保険も適用される医学的治療の対象です。

誤解5:「粉瘤の手術は高額」

粉瘤の手術は、医学的治療として健康保険が適用されるため、自己負担額は比較的抑えられます。

真実は、健康保険が適用される場合の医療費自己負担割合は、年齢や所得に応じて異なりますが、一般的には3割です。粉瘤の切除手術における自己負担額の目安は、保険診療での全国平均で8,200円(3割負担換算)程度と報告されています。個別のケースでは数千円から2万円程度となることが多いようです。

粉瘤が疑われる場合の受診タイミング

粉瘤が疑われる場合、どのタイミングで医療機関を受診すべきでしょうか。以下のような症状や状況がある場合は、早めに皮膚科を受診することをお勧めします。

受診が必要なケース

まず、「急に大きくなった」「痛みや赤みが出てきた」という場合は要注意です。粉瘤が炎症を起こしている可能性があり、早めの処置が必要です。炎症を起こした粉瘤は痛みを伴い、触れると熱を持っていることもあります。

また、「自分で潰してしまった」という場合も受診が必要です。自己処置によって感染リスクが高まっている可能性があります。医師による適切な処置を受けましょう。

「大きさが気になる」「目立つ場所にある」という場合も、医師に相談するとよいでしょう。特に顔や首など、人目につきやすい場所にある粉瘤は、早めに処置することで目立ちにくい傷跡で済むことがあります。

さらに、「以前に粉瘤の手術をしたが再発した」という場合も受診が必要です。前回の手術で袋が完全に取り除かれていなかった可能性があります。

医療機関選びのポイント

粉瘤の治療を受ける際は、皮膚科や形成外科を選ぶとよいでしょう。特に粉瘤の手術実績が豊富な医療機関を選ぶことで、再発リスクの低い適切な治療を受けられる可能性が高まります。

受診の際は、いつから症状があるか、大きさの変化、痛みの有無などを医師に伝えましょう。また、以前に粉瘤の治療を受けたことがある場合は、その情報も伝えることが大切です。

粉瘤は放置すると大きくなったり、炎症を起こしたりする可能性があります。気になる症状がある場合は、自己判断せず、専門医に相談することをお勧めします。

まとめ:粉瘤との上手な付き合い方

粉瘤は皮膚の下に袋状の構造ができ、その中に皮脂や角質が溜まることで形成される良性の腫瘍です。顔、首、背中など、皮脂腺が多い部位にできやすく、放置すると徐々に大きくなる傾向があります。

粉瘤の原因としては、毛穴の詰まり、皮膚の摩擦や刺激、感染や炎症の影響、ホルモンバランスの乱れ、先天的な要因などが考えられます。特に20歳から60歳の男性に多く見られます。

自宅でのケアとしては、患部を清潔に保つ、適切な保湿を心がける、刺激を避けるなどが挙げられますが、これらは「治療」ではなく「悪化防止」のためのものです。粉瘤を根本的に治すには、医療機関での適切な処置が必要です。

医療機関での主な治療法には、切開排膿、腫瘍摘出手術(くり抜き法、切除縫縮法)、レーザー治療などがあります。どの治療法が最適かは、粉瘤の大きさや状態、場所によって異なりますので、医師とよく相談して決めることが大切です。

粉瘤の再発を防ぐためには、皮膚を清潔に保つ、適切な保湿を心がける、摩擦や圧迫を避ける、規則正しい生活とバランスの良い食事を心がける、定期的な皮膚チェックを行うなどの予防法があります。

粉瘤に関する誤解も多く、「自分で潰せば治る」「すべての粉瘤は同じ」「必ず手術が必要」「美容の問題だけ」「手術は高額」などがありますが、これらは正しくありません。粉瘤は医学的な皮膚疾患であり、適切な治療が必要です。

粉瘤が疑われる場合は、急に大きくなった、痛みや赤みが出てきた、自分で潰してしまった、大きさが気になる、目立つ場所にある、以前の手術部位に再発したなどの症状や状況がある場合は、早めに皮膚科や形成外科を受診しましょう。

粉瘤は適切な治療と予防法で上手に付き合うことができます。気になる症状がある場合は、自己判断せず、専門医に相談することをお勧めします。

当院では、消化器内科・内視鏡専門医として皆様の健康をサポートしています。皮膚のお悩みも含め、どんな小さな症状でもお気軽にご相談ください。

詳しい情報や診療時間については、石川消化器内科・内視鏡クリニックのホームページをご覧ください。

 

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.21

雇入れ時健康診断とは?義務と実施方法を完全解説

雇入れ時健康診断の基本と法的義務

雇入れ時健康診断とは、企業が新たに従業員を雇い入れる際に実施が義務付けられている健康診断です。労働安全衛生法に基づき、労働者の安全と健康を守るために設けられた重要な制度となっています。

この健康診断は、新しく雇用する従業員の健康状態を把握し、適切な職場配置や健康管理に役立てることが目的です。単なる形式的な手続きではなく、従業員の健康を守り、企業の安全配慮義務を果たすための重要なステップなのです。

雇入れ時健康診断は、労働安全衛生規則第43条において「事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならない」と明確に規定されています。この規定に違反した場合、労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰則が科される可能性もあるため、企業側は確実に実施する必要があります。

消化器内科医としての経験から申し上げると、健康診断は病気の早期発見・早期治療につながる重要な機会です。特に新たに職場に入る方々にとっては、これから長く働く環境で健康を維持するための第一歩となります。

 

雇入れ時健康診断の対象者と実施時期

雇入れ時健康診断の対象となるのは「常時使用する労働者」です。これは正社員だけでなく、一定の条件を満たすパートタイマーやアルバイトも含まれます。

具体的には、以下のいずれかに該当し、かつ1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上である場合は、健康診断を実施する必要があります。

  • 雇用期間の定めのない者
  • 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上使用される予定の者
  • 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上引き続き使用されている者

例えば、正社員の労働時間が週40時間の企業であれば、週30時間以上勤務するパートタイマーやアルバイトも対象となります。なお、4分の3未満であっても、週の所定労働時間が通常の労働者のおおむね2分の1以上であれば、健康診断の実施が望ましいとされています。

実施時期については、「雇入れるとき」と規定されていますが、具体的には雇入れの直前または直後が適切とされています。明確な期限は定められていませんが、雇入れ前後3ヶ月以内の実施が望ましいと考えられます。

臨床現場で多くの健康診断を担当してきた経験から言えることですが、入社直後は業務に慣れることで精一杯になりがちです。そのため、可能であれば入社前、あるいは配属前に健康診断を済ませておくことをお勧めします。

また、入社前3ヶ月以内に医師による健康診断を受けた結果を提出できる場合は、その項目については雇入れ時健康診断を省略することができます。これは求職者の負担軽減にもつながる重要なポイントです。

雇入れ時健康診断の検査項目と特徴

雇入れ時健康診断では、労働安全衛生規則第43条に基づき、以下の11項目について検査を行うことが義務付けられています。

  • 既往歴及び業務歴の調査
  • 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  • 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  • 胸部エックス線検査
  • 血圧の測定
  • 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
  • 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
  • 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  • 血糖検査
  • 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無)
  • 心電図検査

これらの項目は、年に1回行われる定期健康診断とほぼ同じですが、いくつか重要な違いがあります。

まず、定期健康診断では医師の判断により一部の検査項目を省略できますが、雇入れ時健康診断では全項目の実施が必須です。また、定期健康診断では胸部エックス線検査に加えて喀痰検査が含まれることがありますが、雇入れ時健康診断では喀痰検査は含まれません。

消化器内科医の立場から特に注目すべきは、肝機能検査や血中脂質検査です。これらの検査結果は、脂肪肝や脂質異常症などの生活習慣病の早期発見につながります。また、血糖検査は糖尿病のリスク評価に重要で、尿検査は腎機能の基本的な評価ができます。

健康診断の実施方法としては、事業所が医療機関と契約して一斉に受診させる方法と、従業員が個別に医療機関で受診する方法があります。個別受診の場合は、検査項目の漏れや受診遅延が生じやすいため、企業側は項目や期日の通知だけでなく、予約や受診状況の確認など細やかなフォローが必要です。

 

雇入れ時健康診断の目的と位置づけ

雇入れ時健康診断の主な目的は、労働者を適切な職場に配置するための情報収集と、入社後の健康管理の基礎データを得ることにあります。ここで非常に重要なのは、雇入れ時健康診断の結果を採用の判断材料にしてはならないという点です。

厚生労働省は「採用選考時に同規則を根拠として採用可否決定のための健康診断を実施することは適切さを欠くもの」としています。つまり、企業の採用担当者が求職者の健康診断結果をみて、それだけを理由に不採用にすることは不適切な行為とされています。

雇入れ時健康診断は労働安全衛生法に基づく一般健康診断の一つです。一般健康診断には、雇入れ時健康診断のほかに、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、海外派遣労働者の健康診断、給食従業員の検便などがあります。

医師として強調したいのは、健康診断は単なる法的義務の履行ではなく、従業員の健康を守るための重要な機会だということです。特に生活習慣病は初期には自覚症状がほとんどないため、健康診断による早期発見が非常に重要です。

また、雇入れ時健康診断の結果は、その後の定期健康診断と比較することで、職場環境が従業員の健康に与える影響を評価する基準にもなります。このように、雇入れ時健康診断は従業員の健康管理における出発点として重要な位置を占めているのです。

雇入れ時健康診断の費用と実施手順

雇入れ時健康診断の費用は、全額を事業者が負担することになっています。これは公的医療保険の対象外であり、いわゆる「保険がきかない検査」となるためです。企業は労働者に雇入れ時健康診断の費用を請求したり負担させたりしてはいけません。

健康診断の費用は医療機関によって異なりますが、一般的には1人あたり1万円前後が相場です。検査項目の追加や詳細な検査を行う場合は、さらに費用が増加することもあります。

雇入れ時健康診断の実施手順としては、まず対象となる従業員を特定し、健康診断を実施する医療機関を選定します。次に、従業員に健康診断の日程や場所、準備事項などを通知します。健康診断実施後は、結果を記録し、必要に応じて医師の意見を聴取します。

私が院長を務める医療機関でも企業の健康診断を多数実施していますが、スムーズな実施のためには事前の準備が重要です。特に、従業員への説明や当日の流れの確認など、細かな配慮が必要になります。

また、健康診断の結果は「健康診断個人票」として5年間保存することが義務付けられています。近年はデータでの保存も認められており、2025年1月からは健康診断結果報告の電子申請が義務化されることもあり、データ管理の重要性が高まっています。

健康診断結果の取り扱いには注意が必要です。健康診断の結果は「要配慮個人情報」に該当するため、適切な管理が求められます。特に、第三者への提供には本人の同意が必要となります。

雇入れ時健康診断後の措置と注意点

雇入れ時健康診断を実施した後は、いくつかの措置を講じる必要があります。まず、健康診断の結果を受診者全員に通知することが義務付けられています。また、健康診断の結果に基づいて、医師等からの意見を聴取し、必要に応じて就業上の措置を講じなければなりません。

特に注意が必要なのは、健康診断で異常所見が認められた場合の対応です。二次検査が必要と判断された従業員には、再検査を受けるよう促すことが重要です。

雇入れ時健康診断を実施した場合、その後1年間は定期健康診断を省略することができます。ただし、特定業務に従事する労働者については、配置後6ヶ月以内に特殊健康診断を実施する必要があります。

消化器内科医としての経験から申し上げると、健康診断で異常所見が見つかった場合、早期に専門医を受診することが非常に重要です。特に消化器系の異常は、早期発見・早期治療により予後が大きく改善することが多いです。

また、企業側としては、健康診断の結果を単に記録するだけでなく、従業員の健康管理に積極的に活用することが望ましいです。例えば、生活習慣病のリスクが高い従業員には、保健指導を行うなどの支援が効果的です。

健康診断の結果は、個人の健康状態を示す重要な情報であると同時に、企業全体の健康課題を把握するためのデータでもあります。従業員の健康状態を分析し、職場環境の改善や健康増進施策の立案に活用することで、企業全体の健康レベルの向上につなげることができます。

まとめ:雇入れ時健康診断の重要性と適切な実施

雇入れ時健康診断は、労働安全衛生法に基づく企業の義務であり、従業員の健康管理の第一歩となる重要な制度です。常時使用する労働者を雇い入れる際には、11項目の法定検査を含む健康診断を実施し、その結果を適切に管理・活用することが求められます。

実施対象は正社員だけでなく、一定条件を満たすパートタイマーやアルバイトも含まれます。実施時期は雇入れの前後3ヶ月以内が望ましく、費用は全額事業者負担となります。

雇入れ時健康診断の目的は採用判断ではなく、適正配置や健康管理にあります。健康診断の結果は5年間保存する義務があり、2025年1月からは結果報告の電子申請が義務化されます。

医師として強調したいのは、健康診断は単なる法的義務の履行ではなく、従業員の健康を守るための重要な機会だということです。特に生活習慣病は初期には自覚症状がほとんどないため、健康診断による早期発見が非常に重要です。

企業と従業員が共に健康管理の重要性を認識し、雇入れ時健康診断を適切に実施・活用することで、働きやすい職場環境の構築と生産性の向上につなげることができるでしょう。

健康診断でお悩みの方は、ぜひ専門医にご相談ください。当院では各種健康診断も実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

詳細は石川消化器内科・内視鏡クリニックのホームページをご覧ください。

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.21

悩まされる慢性便秘!根本改善するための5つの方法を消化器内科医が解説

慢性便秘とは?医学的に正しい理解から始めよう

便秘は誰もが一度は経験したことがある身近な症状です。しかし、その多くは一時的なものであり、生活習慣の改善や市販薬で解消されることがほとんどです。

ところが、3ヶ月以上にわたって症状が続く「慢性便秘症」となると話は別です。これは単なる不快な症状ではなく、生活の質を著しく低下させ、さらには様々な健康リスクをもたらす可能性がある病態なのです。近年の研究では、慢性便秘は長期生存率の低下や冠動脈疾患、パーキンソン病との関連も示唆されています。

私は消化器内科医として多くの便秘に悩む患者さんを診てきましたが、実は便秘で医療機関を受診する方は全体の5%にも満たないというデータがあります。多くの方が「恥ずかしい」「大したことない」と思い、自己流の対処を続けているのが現状です。

慢性便秘症の定義は、「3ヶ月以上にわたり、週に3回以下の排便、または排便時の過度のいきみ、硬い便、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便のための用手的補助が必要など、複数の症状が見られる状態」です。これらの症状が1つでもあれば、慢性便秘症の可能性を考える必要があります。

便秘が引き起こす5つの健康リスク

便秘は単なる不快な症状ではありません。長期間放置すると、思いもよらない健康リスクをもたらします。

まず第一に、慢性便秘は腸内環境の悪化を招きます。便が腸内に長時間滞留することで腸内細菌のバランスが崩れ、有害物質が産生されやすくなります。これが腸内環境の悪化を招き、免疫機能の低下にもつながるのです。実際、最新の研究では腸内細菌叢の乱れが様々な全身疾患と関連していることが明らかになっています。

第二に、便秘は痔や肛門裂傷などの肛門疾患のリスクを高めます。硬い便を排出しようと強くいきむことで、肛門周囲の血管に負担がかかり、痔核(いわゆる「いぼ痔」)や裂肛(肛門の切れ目)を引き起こすことがあります。これらは出血や激しい痛みを伴い、日常生活に大きな支障をきたします。

第三に、慢性便秘は大腸憩室症のリスク因子です。腸管内の圧力が高まることで腸壁が外側に押し出され、小さな袋状の突出(憩室)が形成されます。憩室自体は無症状のことが多いですが、炎症を起こすと(憩室炎)激しい腹痛や発熱を引き起こし、時に入院治療が必要になることもあります。

さらに、長期的な便秘は大腸がんのリスク因子である可能性も指摘されています。便の滞留時間が長くなることで、発がん物質と腸粘膜の接触時間が増加するためと考えられています。

最後に、意外かもしれませんが、便秘は心血管疾患のリスクを高める可能性があります。排便時の過度のいきみは血圧を急上昇させ、心臓に負担をかけます。特に高齢者や心疾患のある方は注意が必要です。

これらのリスクを考えると、慢性便秘は単なる生活の質の問題ではなく、健康上の重要な課題であることがわかります。

便秘の原因を知り、タイプ別に対策を立てる

便秘を効果的に改善するためには、まず自分の便秘のタイプを知ることが重要です。便秘には大きく分けて3つのタイプがあります。

一つ目は「機能性便秘」です。これは最も一般的なタイプで、腸の動きが鈍くなる「腸管運動機能低下型」と、排便時に力を入れても便が出にくい「排便困難型」に分けられます。生活習慣の乱れ、ストレス、運動不足、食物繊維の摂取不足などが主な原因です。

二つ目は「器質性便秘」です。これは大腸がんや腸閉塞、腸管狭窄など、腸に器質的な異常がある場合に起こります。突然の便通異常、血便、体重減少などの症状を伴う場合は、この可能性を考える必要があります。

三つ目は「薬剤性便秘」です。鎮痛薬(特にオピオイド)、抗うつ薬、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、降圧薬など、様々な薬が便秘を引き起こす可能性があります。特に高齢者は複数の薬を服用していることが多く、薬剤性便秘のリスクが高まります。

便秘のタイプによって適切な対処法は異なります。たとえば、腸管運動機能低下型の便秘には運動療法や食事療法が効果的ですが、排便困難型には骨盤底筋のリハビリテーションが必要なこともあります。

あなたはどのタイプの便秘でしょうか?

自分の便秘のタイプを知るためには、症状の特徴を観察することが大切です。排便回数だけでなく、便の硬さ、排便時の感覚、腹部の不快感なども重要な手がかりになります。

便秘の原因が明らかになれば、それに合わせた対策を立てることができます。次からは、私が臨床経験から効果的だと実感している5つの改善方法をご紹介します。

胃がむかむかするのはなぜ?

方法1:腸内環境を整える食事療法

便秘改善の基本は、やはり食事です。特に重要なのは食物繊維の摂取です。

食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があります。水溶性食物繊維は水に溶けて粘性のあるゲル状になり、便のかさを増やして腸の中をスムーズに移動させる効果があります。不溶性食物繊維は水に溶けずに便のかさを増やし、腸の蠕動運動を促進します。

水溶性食物繊維が豊富な食品としては、海藻類(わかめ、昆布)、果物(りんご、バナナ、キウイ)、オクラ、なめこなどがあります。不溶性食物繊維が多い食品には、玄米、全粒粉パン、こんにゃく、ごぼう、さつまいもなどがあります。

私の臨床経験では、特に効果的だと感じるのは、キウイフルーツと干しプルーンです。キウイフルーツには食物繊維だけでなく、タンパク質分解酵素のアクチニジンが含まれており、消化を助ける効果があります。干しプルーンには食物繊維に加え、ソルビトールという天然の緩下成分が含まれています。

また、発酵食品も腸内環境を整えるのに効果的です。ヨーグルト、納豆、キムチ、ぬか漬けなどの発酵食品には、腸内の善玉菌を増やす効果があります。特に乳酸菌やビフィズス菌を含む食品は、腸の蠕動運動を促進し、便通を改善する効果が期待できます。

一方で、便秘を悪化させる食品もあります。精製された炭水化物(白米、白パン、菓子パンなど)、加工食品、脂肪分の多い食品、カフェインやアルコールの過剰摂取は避けるべきです。

食事の摂り方も重要です。規則正しい時間に食事をとることで、胃結腸反射(食事をとると大腸の蠕動運動が活発になる反応)を利用できます。特に朝食をしっかりとることで、朝の排便習慣が身につきやすくなります。

私がよく患者さんに勧めるのは、朝起きたらまず常温の水を一杯飲むことです。これは腸の動きを活性化させ、排便を促す簡単な方法です。

方法2:効果的な運動習慣で腸の動きを活性化

運動不足は便秘の大きな原因の一つです。適度な運動は腸の蠕動運動を促進し、便通を改善する効果があります。

特に有効なのは、有酸素運動です。ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動は、全身の血流を改善し、腸への血流も増加させます。これにより腸の動きが活発になり、便の移動がスムーズになります。

私が特におすすめするのは、朝の時間帯に20〜30分程度のウォーキングを行うことです。朝の運動は体内時計をリセットし、腸の動きを活性化させる効果があります。実際、多くの患者さんが朝のウォーキングを習慣化することで便通が改善したと報告しています。

また、腹筋運動も効果的です。腹筋を鍛えることで腹圧をかけやすくなり、排便がスムーズになります。ただし、過度な腹筋運動は逆効果になることもあるので、無理のない範囲で行いましょう。

ヨガも便秘改善に効果的です。特に「ねじりのポーズ」や「風の抜けるポーズ」など、腸を刺激するポーズは便秘の改善に役立ちます。深い呼吸と組み合わせることで、腸へのマッサージ効果も期待できます。

運動を習慣化するコツは、無理なく続けられる強度と時間から始めることです。いきなり高強度の運動を長時間行うのではなく、まずは5分間のウォーキングから始め、徐々に時間を延ばしていくのがおすすめです。

私の患者さんで印象的だったのは、70代の女性です。長年の便秘に悩み、様々な下剤を試してきましたが効果は一時的でした。そこで毎朝15分の近所の散歩と、簡単なヨガのポーズを取り入れたところ、2週間ほどで便通が改善し、下剤の量を減らすことができました。

日常生活の中でも、エレベーターやエスカレーターの代わりに階段を使う、一駅分歩く、デスクワークの合間に立ち上がって軽くストレッチするなど、小さな運動を取り入れることが大切です。

運動は便秘改善だけでなく、全身の健康にも良い影響を与えます。自分に合った運動を見つけて、無理なく続けていきましょう。

方法3:ストレス管理と排便習慣の確立

便秘とストレスは密接に関連しています。ストレスを感じると、自律神経のバランスが乱れ、腸の動きが鈍くなります。これが便秘を引き起こす一因となるのです。

私の外来でも、仕事や家庭のストレスが増えた時期に便秘が悪化したという患者さんは少なくありません。特に過敏性腸症候群(IBS)の方は、ストレスによって症状が大きく変動することがあります。

ストレス管理の方法としては、深呼吸、瞑想、ヨガ、アロマテラピー、入浴など、自分に合ったリラックス法を見つけることが大切です。特に腹式呼吸は、副交感神経を優位にし、腸の動きを活性化させる効果があります。

十分な睡眠も重要です。睡眠不足は自律神経のバランスを崩し、便秘を悪化させることがあります。規則正しい睡眠習慣を心がけましょう。

次に重要なのが、規則正しい排便習慣の確立です。毎日決まった時間にトイレに座る習慣をつけることで、体内時計が整い、自然な排便リズムが生まれます。

特に朝食後は胃結腸反射により腸の動きが活発になるため、排便に適した時間です。朝食後15〜30分程度、時間に余裕をもってトイレに座りましょう。この時、スマートフォンやタブレットを見ながらではなく、リラックスした状態で腹圧をかけることが大切です。

また、排便を我慢することは避けましょう。便意を感じたらなるべく早くトイレに行くことが重要です。便意を繰り返し我慢すると、次第に便意そのものを感じにくくなる「直腸感覚の鈍化」が起こることがあります。

トイレ環境も排便に影響します。和式トイレよりも洋式トイレの方が排便姿勢として適しています。また、足元に小さな台を置いて膝を高くすると、より自然な排便姿勢になります。

私の患者さんで、長年便秘に悩んでいた30代の男性は、朝の排便習慣を意識的に作ることで症状が改善しました。毎朝同じ時間に起き、水を一杯飲み、軽い体操をした後に朝食をとり、その後トイレに座る習慣をつけたところ、2週間ほどで自然な排便リズムが生まれたそうです。

便秘改善には、身体的なアプローチだけでなく、心理的なアプローチも重要です。ストレスを適切に管理し、規則正しい生活リズムと排便習慣を確立することで、薬に頼らない自然な排便を目指しましょう。

方法4:適切な水分摂取と腸活サポート成分

便秘改善には十分な水分摂取が欠かせません。水分が不足すると、大腸で水分が過剰に吸収され、便が硬くなってしまいます。

一日に必要な水分量は、体重や活動量、気候によって異なりますが、一般的には1.5〜2リットル程度が目安です。ただし、単に「水をたくさん飲めば良い」というわけではありません。

私がおすすめするのは、常温の水を少量ずつこまめに飲む方法です。特に朝起きた時と食事の30分前に一杯の水を飲むことで、腸の動きを促進する効果が期待できます。

また、水だけでなく、食物繊維を含む野菜や果物からも水分を摂取することが大切です。これらの食品は水分と食物繊維を同時に摂取できるため、便秘改善に効果的です。

一方で、カフェインを含む飲料(コーヒー、紅茶、緑茶など)やアルコールは利尿作用があり、過剰摂取は体内の水分を奪ってしまうことがあります。これらの飲み物を摂取した場合は、追加で水分を補給するよう心がけましょう。

次に、腸内環境を整えるサポート成分についてお話しします。

プロバイオティクスは、腸内の善玉菌のバランスを整える生きた微生物です。ビフィズス菌や乳酸菌などが代表的で、ヨーグルトや発酵食品に含まれています。サプリメントとしても摂取可能です。

プレバイオティクスは、善玉菌のエサとなる成分です。オリゴ糖、食物繊維、レジスタントスターチなどが該当します。これらを摂取することで、腸内の善玉菌が増え、腸内環境が改善します。

私の臨床経験では、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせて摂取する「シンバイオティクス」が最も効果的です。例えば、オリゴ糖入りのヨーグルトや、食物繊維が豊富な野菜と発酵食品を一緒に摂取するなどの工夫が有効です。

また、マグネシウムも便秘改善に役立つ成分です。マグネシウムには腸に水分を引き寄せる作用があり、便を柔らかくする効果があります。ナッツ類、緑黄色野菜、海藻類、豆類などに多く含まれています。

ただし、サプリメントによる過剰摂取は下痢などの副作用を引き起こす可能性があるため、適切な量を守ることが重要です。特に腎機能に問題がある方は、医師に相談してから摂取するようにしましょう。

水分摂取と腸活サポート成分の摂取は、日々の生活に無理なく取り入れられる便秘改善策です。まずは朝起きた時に水を一杯飲む習慣から始めてみてはいかがでしょうか。

ご来院

方法5:専門医による適切な薬物療法と治療法

ここまでご紹介した生活習慣の改善で多くの便秘は改善しますが、それでも症状が続く場合は、専門医による適切な薬物療法や治療法を検討する必要があります。

便秘治療薬には大きく分けて数種類あります。それぞれ作用機序が異なるため、症状や原因に合わせて適切な薬剤を選択することが重要です。

浸透圧性下剤(酸化マグネシウムなど)は、腸内に水分を引き寄せて便を柔らかくする薬剤です。比較的副作用が少なく、長期使用も可能ですが、腎機能障害のある方は注意が必要です。

刺激性下剤(センノシドなど)は、腸の蠕動運動を直接刺激して排便を促します。即効性がありますが、長期使用により腸が薬に依存してしまう可能性があるため、短期間の使用が原則です。

クロライドチャネルアクチベーター(ルビプロストンなど)は、腸管内に水分を分泌させて便の通過を促進します。慢性便秘症の治療薬として近年注目されています。

グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト(リナクロチドなど)は、腸管内の水分分泌を促進し、腸の運動も活性化させる薬剤です。特に過敏性腸症候群に伴う便秘に効果的です。

これらの薬剤は、症状や原因、年齢、併存疾患などを考慮して選択します。自己判断での服用は避け、必ず医師の指導のもとで適切な薬剤を選択することが重要です。

薬物療法以外にも、バイオフィードバック療法という治療法があります。これは排便時の筋肉の使い方を学び直す治療法で、特に排便困難型の便秘に効果的です。

バイオフィードバック療法では、排便時に腹圧をかけながら肛門括約筋をリラックスさせる正しい排便法を学びます。センサーを使って筋肉の動きを視覚的に確認しながらトレーニングを行うため、自分の体の状態を客観的に理解できるのが特徴です。

また、重度の便秘で他の治療法が効果がない場合には、外科的治療が検討されることもあります。ただし、これはあくまで最終手段であり、慎重に適応を判断する必要があります。

私の臨床経験では、多くの患者さんは適切な生活習慣の改善と、必要に応じた薬物療法の組み合わせで症状が改善します。重要なのは、自己判断で市販薬に頼り続けるのではなく、症状が長期間続く場合は専門医に相談することです。

特に、便秘に加えて血便や急激な体重減少、強い腹痛などの症状がある場合は、大腸がんなどの重大な疾患の可能性もあるため、速やかに医療機関を受診してください。

まとめ:便秘とさよならするための総合アプローチ

慢性便秘は単なる不快な症状ではなく、生活の質を大きく低下させ、様々な健康リスクをもたらす可能性がある問題です。しかし、適切なアプローチで多くの場合は改善が可能です。

今回ご紹介した5つの方法を総合的に取り入れることで、便秘を根本から改善していきましょう。

まず、食物繊維と水分を十分に摂取し、腸内環境を整える食事を心がけましょう。特に水溶性と不溶性の食物繊維をバランスよく摂ることが重要です。

次に、適度な運動を習慣化し、腸の動きを活性化させましょう。特に朝のウォーキングやヨガは効果的です。

ストレス管理と規則正しい排便習慣の確立も重要です。特に朝食後にトイレに座る習慣をつけることで、自然な排便リズムが生まれやすくなります。

プロバイオティクスやプレバイオティクスなどの腸活サポート成分も積極的に取り入れ、腸内環境を整えましょう。

そして、これらの生活習慣の改善で効果が見られない場合は、専門医に相談し、適切な薬物療法や治療法を検討することが大切です。

便秘は一朝一夕で改善するものではありません。根気よく継続することが重要です。また、便秘の原因や症状は人それぞれ異なるため、自分に合った方法を見つけることが大切です。

最後に、便秘に加えて血便や急激な体重減少、強い腹痛などの症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。これらは大腸がんなどの重大な疾患のサインである可能性があります。

便秘は恥ずかしいことではなく、適切な対処が必要な健康問題です。この記事が皆さんの便秘改善の一助となれば幸いです。

健康な腸は健康な体と心の基盤です。便秘を根本から改善し、快適な毎日を取り戻しましょう。

便秘でお悩みの方は、ぜひ石川消化器内科・内視鏡クリニックにご相談ください。消化器内科専門医として、あなたの症状に合わせた最適な治療法をご提案いたします。

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.21

十二指腸潰瘍の3大原因と予防・治療の最新アプローチ

十二指腸潰瘍とは~基本知識と症状

十二指腸潰瘍は、胃の出口から続く十二指腸の粘膜が深く傷つく疾患です。胃潰瘍と合わせて「消化性潰瘍」と呼ばれることもあります。この疾患は、粘膜の防御機能と胃酸などの攻撃因子のバランスが崩れることで発症します。

十二指腸潰瘍の特徴的な症状として、空腹時に痛みが現れ、食事をすると一時的に改善することが挙げられます。これは「空腹時痛」と呼ばれ、胃潰瘍の「食後痛」とは対照的です。

夜間に痛みで目が覚めることもあり、この「夜間性」の症状は十二指腸潰瘍の特徴的なサインです。また、上腹部痛、胸やけ、胃もたれ、吐き気、嘔吐などの症状も見られます。重症化すると黒色便(タール便)が出ることもあり、これは消化管出血のサインとして注意が必要です。

十二指腸潰瘍は、胃潰瘍と比べるとやや発症率は低いものの、若年層から中年層にかけての罹患が目立ちます。男性に多い傾向がありますが、女性も一定の罹患率を示しています。

十二指腸潰瘍の3大原因

十二指腸潰瘍の発症には主に3つの要因が関わっています。これらの原因を理解することが、効果的な予防と治療の第一歩となります。

1. ヘリコバクター・ピロリ菌感染

十二指腸潰瘍の最も重要な原因は、ヘリコバクター・ピロリ菌(H. pylori)の感染です。世界全体の約半数がこの細菌に感染しているとされています。

ピロリ菌は胃に定着し、胃酸分泌を増加させるとともに、十二指腸粘膜の防御機能を低下させます。十二指腸潰瘍患者の約90%がピロリ菌に感染しているというデータもあり、その関連性の高さがうかがえます。

興味深いことに、同じピロリ菌が原因であるにもかかわらず、十二指腸潰瘍の患者は胃癌になりにくいことが知られています。2012年の研究では、この違いがPSCA遺伝子の違いによることが明らかになりました。

PSCA遺伝子のタイプによって、十二指腸潰瘍と胃癌のリスクが逆相関することが分かっています。十二指腸潰瘍になりやすいタイプの人(CC型)では潰瘍のリスクが1.84倍増える一方、胃癌のリスクが約半分(0.59倍)になるというデータが示されています。

2. 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用

アスピリンをはじめとする非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用は、十二指腸潰瘍の重要な原因の一つです。NSAIDsは、プロスタグランジンの生成を抑制することで、胃や十二指腸の粘膜防御機能を低下させます。

NSAIDsを3か月以上継続して使用すると、10-15%で胃潰瘍、3%で十二指腸潰瘍、1%で出血性潰瘍が生じるというデータがあります。これは酸分泌抑制薬を併用しない場合の数値です。

特に注意すべきは、NSAIDs潰瘍の出血を起こしても無症状の患者さんが多いという点です。痛みなどの自覚症状がなくても、潜在的に潰瘍が進行している可能性があります。

3. 胃酸の過剰分泌

十二指腸潰瘍の発症には、胃酸の過剰分泌も重要な役割を果たしています。通常、十二指腸は胃酸を中和する機能を持っていますが、胃酸の分泌が過剰になると、この防御機能が追いつかなくなります。

ピロリ菌感染は胃酸分泌を増加させる一因となります。また、ストレスや特定の食品(カフェイン、アルコール、香辛料の多い食品など)も胃酸分泌を促進することがあります。

胃酸の過剰分泌は、十二指腸粘膜の炎症と組織破壊を引き起こし、潰瘍形成につながります。特に夜間の胃酸分泌増加が、夜間痛という特徴的な症状の原因となっています。

十二指腸潰瘍のリスク因子

十二指腸潰瘍の発症リスクを高める要因には、上記の3大原因に加えて、いくつかの重要な因子があります。これらのリスク因子を理解することで、予防対策をより効果的に行うことができます。

高リスク群の特徴

以下のような状態がある場合、NSAIDs潰瘍を含む十二指腸潰瘍の高リスク群と考えられます:

  • 高齢(65歳以上)
  • 重篤な全身疾患を有する
  • 消化性潰瘍の既往がある
  • 副腎皮質ステロイドの併用
  • 抗凝固薬と抗血小板薬の併用
  • 高用量あるいは複数のNSAIDsの併用
  • ビスホスホネートの併用
  • ヘリコバクターピロリ陽性

特に注目すべきは、複数の薬剤を併用している高齢者です。高齢化社会の進展に伴い、このようなハイリスク患者が増加しています。

生活習慣関連因子

喫煙とアルコール摂取も、NSAIDs潰瘍を含む十二指腸潰瘍のリスクを高める可能性があります。喫煙は胃粘膜の血流を減少させ、アルコールは胃粘膜を直接刺激することで防御機能を低下させます。

不規則な食生活やストレスも、十二指腸潰瘍の発症や悪化に関連していると考えられています。特に長期間の精神的ストレスは、自律神経系を介して胃酸分泌に影響を与える可能性があります。

遺伝的要因も無視できません。前述のPSCA遺伝子の他にも、ABO血液型がリスクに影響することが分かっています。O型の人はA型に比べて1.43倍、十二指腸潰瘍になりやすいというデータがあります。

これらのリスク因子を複数持つ場合、十二指腸潰瘍の発症リスクは相乗的に高まる可能性があります。自分のリスクを知り、適切な予防策を講じることが重要です。

十二指腸潰瘍の診断方法

十二指腸潰瘍の確定診断には、いくつかの検査方法が用いられます。症状だけでは胃潰瘍や機能性ディスペプシアなど他の疾患との区別が難しいため、適切な検査による診断が重要です。

内視鏡検査(上部消化管内視鏡)

十二指腸潰瘍の診断の基本となるのが上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)です。この検査では、口または鼻から細い内視鏡を挿入し、食道、胃、十二指腸の粘膜を直接観察します。

内視鏡検査の最大の利点は、潰瘍を直接目で見て確認できることです。潰瘍の大きさ、深さ、位置、数などを正確に評価できるほか、必要に応じて組織を採取(生検)し、悪性疾患との鑑別も可能です。

近年では、鎮静剤(麻酔)を使用した無痛の内視鏡検査が普及しています。半分眠ったような状態で検査を受けられるため、従来の「辛い・苦しい」というイメージを払拭し、患者さんの負担を大幅に軽減しています。

ヘリコバクター・ピロリ菌の検査

十二指腸潰瘍の主要原因であるピロリ菌の感染を調べる検査も重要です。検査方法には以下のようなものがあります:

  • 内視鏡検査時の生検による検査(培養検査、迅速ウレアーゼ試験、組織検査)
  • 尿素呼気試験(13C-尿素呼気試験)
  • 血液検査(抗ピロリ菌抗体検査)
  • 便検査(ピロリ菌抗原検査)

これらの検査を組み合わせることで、ピロリ菌感染の有無を高い精度で判定することができます。感染が確認された場合は、除菌治療の適応となります。

その他の検査

状況に応じて、以下のような検査が追加で行われることもあります:

  • 血液検査:貧血の有無、炎症反応などを調べます
  • 便潜血検査:消化管出血の有無を調べます
  • X線検査(上部消化管造影):バリウムを飲んでX線撮影を行い、潰瘍の位置や大きさを評価します
  • CT検査:合併症(穿孔など)が疑われる場合に行われます

これらの検査を総合的に評価することで、十二指腸潰瘍の確定診断だけでなく、重症度や合併症の有無も判断することができます。早期の適切な診断が、効果的な治療につながります。

十二指腸潰瘍の予防法と生活習慣の改善

十二指腸潰瘍は適切な予防策により、発症リスクを大幅に低減することができます。特にリスク因子を持つ方は、以下の予防法を積極的に取り入れることをお勧めします。

ピロリ菌感染の検査と除菌

ピロリ菌感染が十二指腸潰瘍の主要原因であることから、感染が確認された場合は除菌治療を検討することが重要です。特に以下のような方は検査をお勧めします:

  • 消化性潰瘍の既往がある方
  • 消化性潰瘍の家族歴がある方
  • 慢性的な胃の不調がある方
  • 胃癌のリスクが心配な方

除菌治療により、十二指腸潰瘍の再発率は著しく低下します。一度除菌に成功すれば、再感染率は年間0.5%程度と低く、長期的な予防効果が期待できます。

NSAIDs使用時の注意点

NSAIDsを使用する必要がある場合は、以下の点に注意することで潰瘍リスクを軽減できます:

  • 必要最小限の用量と期間にとどめる
  • 高リスク患者では、PPIやP-CABを併用する
  • 可能であれば、胃腸への影響が少ないCOX-2選択的阻害薬の使用を検討する
  • アルコールや喫煙を避ける

NSAIDs潰瘍のリスクが高いと予想される場合、潰瘍歴のない患者さんにおいてもNSAIDs潰瘍の予防投与が望ましいとされています。潰瘍歴のある患者さんの予防には、PPIやボノプラザンが推奨されます。

生活習慣の改善

十二指腸潰瘍の予防と再発防止には、以下のような生活習慣の改善が効果的です:

  • 禁煙:喫煙は潰瘍治癒を遅らせ、再発リスクを高めます
  • 節酒:過度のアルコール摂取は胃粘膜を刺激します
  • 規則正しい食生活:空腹の時間を長くしないよう、規則的に食事をとりましょう
  • ストレス管理:リラクゼーション法や適度な運動でストレスを軽減しましょう
  • 十分な睡眠:良質な睡眠は自律神経のバランスを整えます

特に注目すべきは、喫煙の影響です。喫煙は胃粘膜の血流を減少させ、潰瘍治癒を遅らせるだけでなく、ピロリ菌除菌の成功率も低下させることが知られています。

定期的な健康チェック

十二指腸潰瘍の既往がある方や、リスク因子を持つ方は、定期的な健康チェックが重要です。特に以下のような場合は、早めに医療機関を受診しましょう:

  • 上腹部に持続する痛みがある
  • 黒色便(タール便)が出る
  • 貧血の症状(めまい、倦怠感など)がある
  • NSAIDsを長期服用している

早期発見・早期治療が、重篤な合併症を防ぐ鍵となります。特に高齢者では、症状が典型的でない場合もあるため、注意が必要です。

十二指腸潰瘍の合併症と注意点

十二指腸潰瘍は適切に治療されなければ、いくつかの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。これらの合併症を理解し、早期に対処することが重要です。

出血

十二指腸潰瘍の最も一般的な合併症は出血です。潰瘍が深くなり、血管を侵食することで発生します。出血の症状には以下のようなものがあります:

  • 黒色便(タール便):消化管上部からの出血を示します
  • 吐血:鮮血や「コーヒー残渣様」の嘔吐物
  • めまい、立ちくらみ、倦怠感:貧血の症状
  • 頻脈、血圧低下:大量出血時に見られます

出血性潰瘍は緊急処置が必要な状態です。内視鏡的止血術が第一選択となりますが、止血困難例ではIVRや外科的治療が検討されます。

特に注意すべきは、NSAIDs潰瘍の出血を起こしても無症状の患者さんが多いという点です。定期的な検査と予防的な対策が重要となります。

穿孔

穿孔は、潰瘍が十二指腸壁を完全に貫通し、内容物が腹腔内に漏れ出す状態です。突然の激しい腹痛で発症し、腹部全体の痛みと硬直(板状硬)が特徴的です。

穿孔は生命を脅かす緊急事態であり、速やかな外科的処置が必要となります。CT検査で診断され、多くの場合、緊急手術が行われます。

近年では、腹腔鏡を用いた低侵襲手術も行われるようになってきました。早期に適切な治療を行うことで、予後は大きく改善します。

狭窄

十二指腸潰瘍が治癒する過程で瘢痕組織が形成され、十二指腸の内腔が狭くなることがあります。これを狭窄と呼びます。主な症状には以下のようなものがあります:

  • 食後の膨満感、不快感
  • 嘔吐(特に食後)
  • 体重減少
  • 上腹部痛

狭窄の治療には、内視鏡的バルーン拡張術や外科的治療が検討されます。ピロリ菌除菌治療の普及により、狭窄を含む潰瘍の合併症は減少傾向にありますが、高齢者や複数の疾患を持つ患者では依然として注意が必要です。

高齢者における注意点

高齢者の十二指腸潰瘍には、いくつかの特徴と注意点があります:

  • 症状が非典型的であることが多い(痛みを訴えないケースも)
  • NSAIDsや抗血栓薬の使用頻度が高く、出血リスクが増加
  • 合併症発生時の重症化リスクが高い
  • 複数の疾患や薬剤使用による複雑な病態

本邦の超高齢社会において、併存疾患の存在や抗血栓薬ならびに非ステロイド性抗炎症薬内服患者の増加によって、患者背景が変化していることに注意が必要です。高齢者では予防的なアプローチと定期的な健康チェックがより重要となります。

まとめ~十二指腸潰瘍との上手な付き合い方

十二指腸潰瘍は、ヘリコバクター・ピロリ菌感染、NSAIDsの使用、胃酸の過剰分泌という3大原因によって引き起こされる疾患です。かつては難治性とされていましたが、現在では適切な治療により高い確率で治癒が可能となっています。

ピロリ菌感染が確認された場合は、除菌療法が第一選択となります。除菌成功により潰瘍再発率は著しく低下します。NSAIDs起因性の潰瘍では、可能であれば使用中止、または酸分泌抑制薬の併用が推奨されます。

予防においては、ピロリ菌検査と除菌、NSAIDs使用時の注意、生活習慣の改善が重要です。特に喫煙、過度のアルコール摂取、不規則な食生活、ストレスは潰瘍のリスクを高めるため、これらの改善が効果的です。

十二指腸潰瘍の症状として特徴的なのは、空腹時の痛みと夜間痛です。黒色便や吐血などの出血症状、突然の激しい腹痛などの穿孔症状がある場合は、緊急の医療処置が必要です。

高齢者では症状が非典型的であることが多く、NSAIDsや抗血栓薬の使用頻度も高いため、特に注意が必要です。定期的な健康チェックと予防的なアプローチが重要となります。

十二指腸潰瘍は、適切な知識と予防・治療により、上手に付き合っていくことが可能な疾患です。気になる症状がある場合は、早めに消化器専門医に相談することをお勧めします。

当院では、鎮静剤(麻酔)を使用した無痛の内視鏡検査を提供しており、十二指腸潰瘍を含む消化器疾患の早期発見・早期治療に力を入れています。些細な症状でもお気軽にご相談ください。

詳細な情報や検査のご予約については、石川消化器内科・内視鏡クリニックまでお問い合わせください。

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.21

【2025年最新】大腸カメラ人間ドックの費用相場と選び方ガイド

大腸カメラ検査とは?人間ドックでの重要性

大腸カメラ検査は、下剤で大腸内を空にした後、内視鏡を肛門から挿入して大腸全体を観察する検査です。直径10mm前後の内視鏡を使用し、リアルタイムで腸内の状態を確認します。

この検査では、大腸がんやポリープ、炎症性腸疾患など、さまざまな病変を早期に発見することができるのです。

近年、大腸がんは日本人の罹患数第1位、死亡数では男性が第3位、女性が第1位となっている深刻な疾患です。食生活の欧米化や高齢化により増加傾向にあり、30代でも発症するケースが見られます。

私は消化器内科医として多くの患者さんを診てきましたが、早期発見できれば治療効果が高いのが大腸がんの特徴です。ステージⅠで発見された場合の5年生存率は92.3%と非常に高いのです。

大腸がんの初期段階では自覚症状がほとんどないため、定期的な検査が何よりも重要になります。

「検査は痛そう」「恥ずかしい」と躊躇される方も多いですが、現在は鎮静剤を使用した無痛検査や、患者さんの負担を軽減する様々な工夫が進んでいます。

大腸カメラ人間ドックの費用相場(2025年最新)

大腸カメラ検査の費用は、受ける医療機関や検査内容によって異なります。2025年現在の費用相場を詳しく見ていきましょう。

自費で検査を受ける場合と、自治体の補助を利用する場合では大きく金額が変わってきます。また、保険適用となるケースもあるので、状況に応じた選択が可能です。

自費で検査する場合の費用

人間ドックなど自費で大腸カメラ検査を受ける場合、医療機関によって金額や対象年齢が異なります。自分の希望するタイミングで検査を受けられる利点があります。

大腸内視鏡検査(大腸カメラ)単独の場合、一般的な費用相場は約20,000円程度です。ただし、医療機関によって15,000円~30,000円程度の幅があります。

人間ドックのオプションとして大腸カメラを追加する場合は、単独で受けるよりも割安になることが多く、15,000円前後で受けられる医療機関も少なくありません。

また、胃カメラと大腸カメラをセットで受ける「胃大腸カメラセット」は、45,000円前後が相場となっています。

検査中にポリープが見つかり、その場で切除した場合は追加費用が発生します。ポリープ切除を含めると、20,000円~30,000円程度の費用がかかることが一般的です。

自治体の補助を利用した場合の費用

各地方自治体(都道府県、市町村、特別区)では、大腸がん検診の補助制度を設けています。ただし、多くの自治体で補助対象となるのは便潜血検査(検便)であり、大腸カメラ検査自体への直接的な補助は限られています。

自治体の補助を利用した便潜血検査の自己負担額は、無料から有料でも500円~1,000円程度と非常に安価です。

便潜血検査で陽性反応が出た場合、精密検査として大腸カメラ検査を受けることになりますが、この場合は健康保険が適用されるため、自己負担額は6,000円~9,000円程度になります。

保険診療となる場合の費用

便潜血検査などで異常が見つかった場合や、腹痛・下血などの症状がある場合は、大腸カメラ検査が保険診療の対象となります。この場合の自己負担額は、検査内容によって以下のように変わります。

  • 観察のみの場合:5,000円~7,000円程度
  • 組織を一部採取して病理検査を行う場合:5,000円~15,000円程度
  • ポリープ切除を行った場合:20,000円~30,000円程度

保険診療の場合、3割負担で計算していますが、高額療養費制度や各種医療費助成制度を利用できる場合もあります。

大腸カメラ検査の種類と選び方

大腸カメラ検査には、いくつかの種類があります。それぞれの特徴を理解し、自分に合った検査方法を選ぶことが大切です。

通常の大腸内視鏡検査

最も一般的な検査方法で、肛門から内視鏡を挿入し、直腸から盲腸までの大腸全体を観察します。検査時間は15分程度ですが、前処置や待機時間を含めると2~3時間ほどかかります。

がんやポリープに対する診断精度が非常に高く、病変が見つかった場合はその場で組織採取や小さなポリープの切除が可能です。

ただし、内視鏡挿入時の不快感や痛みを感じる方もいらっしゃいます。そのため、最近では鎮静剤(麻酔)を使用した無痛検査が普及しています。

S状結腸内視鏡検査

大腸の入り口部分(S状結腸まで)のみを観察する検査です。検査時間が短く、前処置も比較的簡単なのが特徴です。費用も通常の大腸内視鏡検査より安く、保険診療で約3,000円程度です。

ただし、大腸全体を観察するわけではないため、奥の方にある病変を見逃す可能性があります。大腸がんは直腸やS状結腸に多く発生するため、スクリーニング検査としては有用ですが、全体を確認するには通常の大腸内視鏡検査が必要です。

CTによる大腸検査(CTコロノグラフィ)

肛門から炭酸ガスを注入してCTで撮影する検査方法です。内視鏡を使わないため、挿入時の痛みがなく、穿孔などのリスクも低いのが特徴です。費用相場は20,000円~30,000円程度です。

ただし、病変が見つかっても組織採取やポリープ切除はできないため、異常があれば改めて通常の大腸内視鏡検査が必要になります。また、小さなポリープの発見率は内視鏡検査より劣ります。

どうですか?ご自身の状況や不安要素に合わせて検査方法を選ぶことができますね。

消化器・内視鏡専門医による診察と検査

大腸カメラ検査を受けるべき人とタイミング

大腸カメラ検査は誰もが定期的に受けるべきものではありませんが、特定の条件に当てはまる方は積極的に検討すべき検査です。

大腸カメラ検査を受けたほうがよい方

以下のような方は、大腸カメラ検査を受けることをお勧めします。

  • 便潜血検査で陽性反応が出た方
  • 血便や下痢、便秘の繰り返しなど腸の症状がある方
  • 大腸がんの家族歴がある方
  • 過去にポリープや大腸がんが見つかった方
  • 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)と診断された方
  • 50歳以上の方(特にリスク因子がある場合)

特に40歳を超えると大腸がんのリスクは徐々に高まり始めます。50歳以上になると、症状がなくても定期的な検査を検討すべき年齢といえるでしょう。

私の臨床経験から言えば、家族歴のある方は特に注意が必要です。親や兄弟に大腸がんの既往がある場合、リスクは約2倍に高まるとされています。

大腸カメラ検査の推奨頻度

大腸カメラ検査の受診頻度は、個人のリスク因子や過去の検査結果によって異なります。

一般的な目安としては以下のようになります:

  • 異常がなかった場合:5~10年ごと
  • 小さなポリープが見つかり切除した場合:3~5年ごと
  • 複数または大きなポリープが見つかった場合:1~3年ごと
  • 大腸がんの治療後:医師の指示に従う(通常は1年ごと)
  • 炎症性腸疾患がある場合:1~2年ごと

ただし、これはあくまで一般的な目安です。実際の検査間隔は、医師が患者さん一人ひとりの状況を考慮して判断します。

あなたはいかがですか?定期的な検査を受けていますか?

大腸カメラ検査の流れと準備

大腸カメラ検査を受ける際には、事前の準備が非常に重要です。検査の精度を高め、スムーズに進めるためにも、正しい準備を行いましょう。

検査前の食事制限と下剤

大腸内視鏡検査では、腸内をきれいにしておく必要があります。食物が消化されて排泄されるまでには24~48時間かかるため、検査前日からの準備が必要です。

検査前日の朝食からは、消化の良いものを摂るようにしましょう。おかゆや素うどんなどがおすすめです。医療機関によっては専用の検査食が用意されている場合もあります。

前日の夕食は軽めの消化の良いものを20時までに済ませ、その後は水分のみの摂取となります。就寝前に下剤を服用し、早めに就寝するのが良いでしょう。

検査当日の朝は食事ができません。ただし、脱水予防のために水分摂取は積極的に行ってください。検査の1~2時間前からは大腸内視鏡用の下剤(約1.5リットル)を服用し、便が透明になるまで続けます。

下剤の効果には個人差があり、服用開始から効果が現れるまで30分~2時間程度かかります。トイレに何度も行く必要があるため、検査当日は余裕をもったスケジュールを組むことをお勧めします。

検査当日の流れ

検査当日の一般的な流れは以下のようになります:

  • 来院・受付
  • 問診・検査の説明
  • 下剤の服用(便が透明になるまで)
  • 検査着に着替え
  • 鎮静剤の使用(希望する場合)
  • 検査台で左側を向いて横になる
  • 内視鏡検査(約15分程度)
  • 回復・休憩(鎮静剤使用の場合は30分程度)
  • 結果説明
  • 帰宅

鎮静剤を使用した場合は、検査後すぐに車の運転はできません。公共交通機関を利用するか、家族に送迎してもらうようにしましょう。

検査後の注意点

検査後は通常の食事に戻れますが、腸が空気で膨らんでいるため、軽い腹部膨満感を感じることがあります。これは徐々に改善していきます。

ポリープ切除を行った場合は、出血のリスクがあるため、数日間は激しい運動や入浴、飲酒を控える必要があります。また、食事内容も制限される場合があるので、医師の指示に従いましょう。

検査中に組織を採取した場合は、病理検査の結果が出るまで1~2週間かかります。結果を聞くために再度来院する必要があります。

当日の胃カメラ・大腸カメラ検査にも対応

大腸カメラ検査の負担を軽減する方法

「大腸カメラは辛い」というイメージをお持ちの方も多いでしょう。しかし、近年は患者さんの負担を軽減するための様々な工夫が進んでいます。

鎮静剤(麻酔)を使用した無痛検査

最も効果的な負担軽減方法は、鎮静剤(麻酔)の使用です。鎮静剤を使用すると、半分眠ったような状態になり、痛みや不快感をほとんど感じることなく検査を受けられます。

私のクリニックでも、多くの患者さんが鎮静剤を使用した検査を選択されています。「あっという間に終わった」「全く覚えていない」という感想をよくいただきます。

鎮静剤の使用には追加費用がかかる場合がありますが、検査の苦痛を大幅に軽減できるため、特に初めて検査を受ける方や過去に辛い経験をした方にはおすすめです。

CO2送気を用いた検査

従来の大腸内視鏡検査では空気を送り込んで腸を膨らませていましたが、最近ではCO2(二酸化炭素)を使用する医療機関が増えています。

CO2は空気よりも体内への吸収が早いため、検査後の腹部膨満感や不快感が軽減されます。検査中の痛みも軽減される傾向にあります。

細径スコープの使用

通常の内視鏡よりも細い「細径スコープ」を使用することで、挿入時の痛みや不快感を軽減できます。

ただし、細径スコープは画質や機能面で若干の制限があるため、すべての医療機関で導入されているわけではありません。検査前に医療機関に確認してみるとよいでしょう。

水浸法による挿入

水浸法は、空気の代わりに水を注入しながら内視鏡を挿入する方法です。腸管が伸びにくくなるため、痛みを軽減できます。

この方法は技術的に難しい面もありますが、患者さんの負担軽減に効果的であるため、導入する医療機関が増えています。

大腸カメラ検査の医療機関選びのポイント

大腸カメラ検査を受ける医療機関を選ぶ際には、いくつかの重要なポイントがあります。適切な医療機関を選ぶことで、より安全で精度の高い検査を受けることができます。

専門医の在籍と経験

最も重要なのは、消化器内視鏡専門医が在籍しているかどうかです。専門医は高度な技術と知識を持ち、安全かつ精度の高い検査を提供できます。

医師の経験も重要な要素です。年間の内視鏡検査実施件数が多い医師ほど、技術が安定しており、偶発症のリスクも低くなります。

医療機関のホームページや電話での問い合わせで、専門医の在籍状況や経験を確認することをお勧めします。

設備と検査環境

最新の内視鏡機器を導入している医療機関では、より高精度な検査が可能です。特に「拡大内視鏡」や「NBI(狭帯域光観察)」などの特殊光観察が可能な機器があると、微細な病変も見逃しにくくなります。

また、ポリープが見つかった場合にその場で切除できる体制が整っているかも重要なポイントです。設備が整っていないと、改めて別の医療機関を受診する必要が生じます。

患者負担への配慮

鎮静剤の使用や、CO2送気、水浸法など、患者さんの負担を軽減する工夫を行っているかどうかも選択の基準になります。

また、検査前の説明が丁寧で、不安や疑問に対応してくれる医療機関を選ぶことも大切です。

女性の方は、女性医師や女性スタッフによる対応が可能かどうかも確認するとよいでしょう。

アクセスと予約のしやすさ

検査当日は下剤の影響でトイレに何度も行く必要があるため、自宅や職場からアクセスしやすい医療機関を選ぶことも重要です。

また、土曜日や夜間の検査に対応しているか、WEB予約が可能かなど、予約のしやすさも考慮すると良いでしょう。

私のクリニックでは、患者さんの利便性を考慮し、土曜日の検査や初診当日の検査にも対応しています。お仕事で平日に時間が取れない方にも検査を受けていただけるよう配慮しています。

まとめ:大腸カメラ検査で健康を守るために

大腸カメラ検査は、大腸がんをはじめとする様々な疾患の早期発見・早期治療に非常に有効な検査です。特に大腸がんは早期発見できれば治療効果が高く、5年生存率も90%を超えます。

2025年現在の費用相場としては、自費診療で約20,000円、保険適用で5,000円~7,000円程度が一般的です。ポリープ切除などを行うと追加費用がかかりますが、健康を守るための投資と考えれば決して高くはないでしょう。

検査に対する不安や恐怖感をお持ちの方も多いと思いますが、鎮静剤の使用やCO2送気など、患者さんの負担を軽減する様々な工夫が進んでいます。「辛い・苦しい」というイメージは、現在の医療技術ではかなり解消されています。

医療機関を選ぶ際は、消化器内視鏡専門医の在籍、最新設備の導入状況、患者負担への配慮などをポイントに検討することをお勧めします。

大腸がんは増加傾向にある疾患ですが、定期的な検査で早期発見できれば怖い病気ではありません。特に50歳を超えたら、症状がなくても一度は検査を検討されることをお勧めします。

健康は何よりも大切な財産です。「検査が怖い」という気持ちは理解できますが、その不安を乗り越えて検査を受けることで、より長く健康な生活を送ることができます。

詳しい検査内容や最新の無痛検査についてもっと知りたい方は、ぜひ 石川消化器内科・内視鏡クリニック にご相談ください。消化器・内視鏡専門医として、皆様の健康をサポートいたします。

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.21

消化不良と胃痛を根本から改善する4つの専門的アプローチ

胃の不調は日常生活の質を著しく低下させます。食後の胃もたれや胸やけ、胃痛などに悩まされると、食事の楽しみが半減してしまいますよね。

消化不良や胃痛は、実は単なる一時的な症状ではなく、生活習慣や自律神経の乱れ、さらには潜在的な疾患のサインかもしれません。

私は消化器内科医として多くの患者さんの胃腸トラブルと向き合ってきました。その経験から言えるのは、消化器症状の改善には対症療法だけでなく、根本的な原因にアプローチすることが重要だということです。

消化不良と胃痛の主な原因と症状

まず、消化不良と胃痛がなぜ起こるのか、その原因と症状を正しく理解しましょう。

消化不良とは、胃腸の働きが低下することでさまざまな不快な症状が現れる状態です。主な症状には、胃もたれ、胸やけ、吐き気、腹痛、膨満感などがあります。

胃痛については、みぞおちや上腹部辺りに痛みを感じるのが特徴で、時に胃がねじれるように痛むこともあります。これは胃痙攣と呼ばれる状態で、胃の筋肉が異常に収縮することで起こります。

消化不良と胃痛の主な原因は以下の4つに分類できます。

1. 食生活の乱れ

食べ過ぎや飲み過ぎは胃に大きな負担をかけます。特に脂肪の多い食べ物、香辛料や刺激物の多い食べ物、アルコールや炭酸飲料の過剰摂取は、胃酸や消化酵素の分泌を乱し、消化不良を引き起こしやすくなります。

また、早食いも消化不良の原因となります。噛む回数が少ないと食べ物の消化に時間がかかり、胃に負担をかけてしまうのです。

2. ストレスと自律神経の乱れ

胃の働きは自律神経によってコントロールされています。ストレスや疲労が溜まると自律神経のバランスが崩れ、胃腸の機能に悪影響を及ぼします。

具体的には、ストレスによって交感神経が優位になると、胃の運動が抑制され、消化機能が低下します。また、胃酸の分泌が増加し、胃粘膜を刺激することで胃痛を引き起こすこともあります。

夏場は特に注意が必要です。暑い屋外とクーラーの効いた屋内との寒暖差の影響で自律神経が乱れやすくなります。また、冷たい飲食物の摂取機会が増えることで、胃腸が冷えて胃の働きが低下しやすくなるのです。

3. 疾患による消化不良

消化不良や胃痛が長期間続く場合は、何らかの疾患が隠れている可能性があります。

胃食道逆流症は、胃と食道の境目にある下部食道括約筋が緩むことで、胃酸が食道に逆流し、胸やけや胃のむかつきを引き起こします。加齢による筋力低下や肥満、妊娠、姿勢の悪さなどが原因となることがあります。

胃炎は胃の粘膜に炎症が起きている状態で、急性胃炎と慢性胃炎があります。急性胃炎は食べ過ぎや飲み過ぎ、ストレス過多などが原因となり、慢性胃炎はピロリ菌感染が主な原因とされています。

機能性ディスペプシアは、器質的な異常がないにもかかわらず、上腹部の痛みや不快感、胃もたれなどの症状が続く状態です。ストレスや自律神経の乱れが関与していると考えられています。

4. 胃切除後症候群

胃の手術を受けた方に見られる症状です。胃を切除することで胃の機能が失われ、食べ物が一時的に溜まらなくなったり、消化吸収に影響が出たりします。

特に「ダンピング症候群」と呼ばれる症状では、食後5~30分で冷や汗、動悸、めまいなどの全身症状や、腹痛、下痢などの腹部症状が現れることがあります。また、食後2~3時間で頭痛、倦怠感、発汗などの症状が出ることもあります。

消化不良と胃痛を根本から改善する4つのアプローチ

消化不良と胃痛の改善には、対症療法だけでなく根本的な原因にアプローチすることが重要です。ここでは、私が臨床経験から効果的だと実感している4つの専門的アプローチをご紹介します。

1. 食事療法による胃腸環境の改善

消化不良や胃痛の改善には、まず食生活の見直しが欠かせません。以下のポイントを意識して食事をとりましょう。

  • 少量多食:一度に大量の食事をとるのではなく、少量ずつ回数を分けて食べる
  • よく噛む:一口30回を目安によく噛んで食べる
  • 食事のバランス:高たんぱく、低脂肪、低炭水化物の食事を心がける
  • 刺激物を避ける:辛い食べ物、酸味の強い食べ物、アルコール、カフェインなどは控える
  • 食後の姿勢:食後すぐに横にならず、30分程度は座った状態を保つ

胃に優しい食材を選ぶことも大切です。消化の良い食材としては、お粥、うどん、豆腐、蒸した野菜、脂肪の少ない魚や肉などがおすすめです。発酵食品(ヨーグルトや味噌など)は腸内環境を整えるのに役立ちます。

一方で、脂っこい食べ物、生の野菜や果物、パンや麺類などの小麦製品、乳製品は消化に負担がかかる場合があるので、症状がひどい時は控えめにしましょう。

2. 自律神経バランスの調整

自律神経のバランスを整えることは、消化機能の改善に直結します。以下の方法を日常生活に取り入れてみましょう。

  • 規則正しい生活:決まった時間に起床・就寝し、食事も規則的にとる
  • 適度な運動:ウォーキングやヨガなど、リラックスできる運動を取り入れる
  • ストレス管理:瞑想や深呼吸などのリラクゼーション法を実践する
  • 十分な睡眠:質の良い睡眠をとることで自律神経のバランスを整える
  • 温冷交代浴:ぬるめのお湯に浸かり、最後に冷水で締めることで自律神経を刺激する

特に深呼吸は、いつでもどこでも簡単にできるストレス軽減法です。腹式呼吸を意識して、ゆっくりと鼻から息を吸い、口からゆっくりと吐き出す。これを5分程度続けるだけでも、副交感神経が優位になり、胃腸の働きが活性化します。

ストレスを感じたときこそ、意識的に副交感神経を優位にする時間を作ることが大切です。「忙しくてそんな時間はない」と思うかもしれませんが、5分でも10分でも良いので、自分をリラックスさせる時間を作りましょう。

3. 胃腸機能を高める漢方薬と薬物療法

消化不良や胃痛に対しては、症状や原因に応じた薬物療法が効果的です。

消化酵素剤は、食べ物の消化を助ける酵素を補充することで、消化不良を改善します。食後の胃もたれや膨満感に効果的です。

制酸剤や胃粘膜保護剤は、胃酸の過剰分泌を抑えたり、胃粘膜を保護したりすることで、胃痛や胸やけを緩和します。

漢方薬も消化器症状の改善に効果的です。例えば、六君子湯(りっくんしとう)は、胃腸の働きを高め、食欲不振や胃もたれを改善します。半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は、胃腸の熱を冷まし、胸やけや胃痛を和らげる効果があります。

ただし、薬物療法は自己判断で行うのではなく、必ず医師の診察を受けた上で適切な薬を処方してもらうことが重要です。特に漢方薬は、体質や症状に合わせて選ぶ必要があります。

4. 専門的検査による原因特定と治療

消化不良や胃痛が長期間続く場合は、専門的な検査を受けて原因を特定することが重要です。

胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査)は、食道・胃・十二指腸の粘膜を直接観察することで、胃炎や逆流性食道炎、潰瘍、がん・ポリープなどの病変を早期に発見できます。

ピロリ菌検査も重要です。ピロリ菌感染が確認された場合は、除菌治療を行うことで胃炎や胃潰瘍の改善、さらには胃がんの予防にもつながります。

また、腹部超音波検査やCT検査は、胃だけでなく、肝臓、胆嚢、膵臓など周辺臓器の状態も確認できるため、腹部症状の原因を幅広く探ることができます。

これらの検査結果に基づいて、適切な治療計画を立てることが、消化不良や胃痛を根本から改善する鍵となります。

症状別の対処法と注意点

消化不良や胃痛の症状は人によって異なります。ここでは、症状別の具体的な対処法と注意点をご紹介します。

胃もたれ・胸やけの場合

胃もたれや胸やけは、食後に特に感じやすい症状です。以下の対処法が効果的です。

  • 食後すぐに横にならず、30分程度は座った状態を保つ
  • 食後に軽い散歩をして、胃の消化を促す
  • 就寝前3時間は食事を控える
  • 枕を高くして寝ることで、胃酸の逆流を防ぐ
  • 制酸剤や胃粘膜保護剤を服用する(医師の指示に従って)

胸やけが頻繁に起こる場合は、逆流性食道炎の可能性があります。特に就寝時に症状が悪化する場合や、咳や喉の痛みを伴う場合は、医療機関での検査をおすすめします。

胃痛・腹痛の場合

胃痛や腹痛がある場合は、まず胃を休ませることが大切です。

  • 消化の良い食事を少量ずつとる
  • 温かい飲み物(白湯など)を少しずつ飲む
  • 腹部を温める(カイロや湯たんぽを使用)
  • ストレスを軽減するリラクゼーション法を実践する
  • 胃痛に効果的なツボ(中脘、内関など)を押す

ただし、以下のような場合は、すぐに医療機関を受診してください。

  • 激しい痛みが続く場合
  • 痛みが徐々に強くなる場合
  • 吐き気や嘔吐を伴う場合
  • 血便や黒い便が出る場合
  • 発熱を伴う場合

吐き気・嘔吐の場合

吐き気や嘔吐がある場合は、脱水症状に注意が必要です。

  • 水分を少量ずつ、こまめに摂取する
  • 固形物は控え、消化の良い流動食から始める
  • 生姜茶や薄い塩水を飲む
  • 内関(手首の内側)のツボを押す
  • 安静にして体を休める

嘔吐が続く場合や、嘔吐物に血液が混じっている場合は、すぐに医療機関を受診してください。

ダンピング症候群の場合

胃の手術後に起こりやすいダンピング症候群には、以下の対処法が効果的です。

  • 食事は一度にたくさん食べず、少しずつ回数を多くする
  • 食べ物はよく噛み、唾液と混ぜ合わせてから飲み込む
  • 高たんぱく、低脂肪、低炭水化物の食事を心がける
  • 食後は横になって休む(早期ダンピング症候群の場合)
  • 飴などで糖分を補給する(晩期ダンピング症候群の場合)

ダンピング症候群の症状が強い場合は、医師に相談することをおすすめします。薬物療法が効果的なこともあります。

予防と日常生活での注意点

消化不良や胃痛を予防するためには、日常生活での心がけが重要です。ここでは、予防のためのポイントをご紹介します。

規則正しい食生活

胃腸の健康を維持するためには、規則正しい食生活が基本です。

  • 決まった時間に食事をとる
  • よく噛んでゆっくり食べる
  • 食べ過ぎ・飲み過ぎを避ける
  • バランスの良い食事を心がける
  • 空腹時のアルコール摂取を避ける
  • 就寝前の食事を控える

特に夜遅い時間の食事は、胃酸の分泌を促し、就寝中の胃酸逆流を引き起こしやすくなります。夕食は就寝の3時間前までに済ませるようにしましょう。

ストレス管理と生活リズム

ストレスは消化不良や胃痛の大きな原因の一つです。ストレスを完全に排除することは難しいですが、上手に管理することは可能です。

  • 自分なりのストレス発散法を見つける(趣味、運動など)
  • 十分な睡眠をとる
  • リラクゼーション法を実践する
  • 無理なスケジュールを避け、休息時間を確保する
  • 人間関係のストレスに対しては、コミュニケーションを大切にする

また、生活リズムを整えることも重要です。不規則な生活は自律神経のバランスを崩し、胃腸の機能低下を招きます。できるだけ同じ時間に起床・就寝し、規則正しい生活を心がけましょう。

定期的な健康チェック

消化不良や胃痛が長期間続く場合は、定期的な健康チェックが重要です。

  • 年に一度は健康診断を受ける
  • 40歳以上の方は、胃がん検診を定期的に受ける
  • ピロリ菌検査を受け、陽性であれば除菌治療を検討する
  • 気になる症状があれば、早めに医療機関を受診する

特に、以下のような症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。

  • 急激な体重減少
  • 嘔吐物や便に血液が混じる
  • 強い腹痛が続く
  • 黒色便が出る
  • 飲み込みにくさを感じる

これらの症状は、重大な疾患のサインである可能性があります。早期発見・早期治療が重要です。

まとめ:消化不良と胃痛の根本改善に向けて

消化不良と胃痛は、単なる一時的な症状ではなく、生活習慣や自律神経の乱れ、さらには潜在的な疾患のサインかもしれません。

本記事でご紹介した4つのアプローチ(食事療法、自律神経バランスの調整、薬物療法、専門的検査による原因特定と治療)を組み合わせることで、消化不良と胃痛を根本から改善することが可能です。

特に重要なのは、症状が長期間続く場合は、自己判断せずに専門医の診察を受けることです。胃カメラ検査やピロリ菌検査などの専門的な検査を受けることで、早期に原因を特定し、適切な治療を受けることができます。

日常生活では、規則正しい食生活、ストレス管理、生活リズムの改善を心がけましょう。これらの取り組みは、消化不良や胃痛の予防だけでなく、全身の健康維持にもつながります。

消化器の不調は生活の質を大きく左右します。「胃の調子が悪いのは仕方ない」と諦めずに、ぜひ根本的な改善を目指してください。

当院では、消化器内科専門医による診察はもちろん、内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)、ピロリ菌検査、超音波検査、CT検査など、消化器疾患の診断に必要な検査を一通り行うことができます。消化器の不調でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

詳しい情報や予約方法については、石川消化器内科・内視鏡クリニックの公式サイトをご覧ください。皆様の健康的な生活をサポートいたします。

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.21

ピロリ菌検査と除菌治療の全知識〜成功率98%の最新方法を解説します

ピロリ菌とは?感染経路と胃への影響

ピロリ菌は正式名称をヘリコバクター・ピロリといい、胃の粘膜に生息するらせん形の細菌です。通常、胃の中は強い酸性環境のため細菌が生存できないのですが、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という特殊な酵素を持っています。

この酵素によって胃酸を中和し、自らの周りをアルカリ性環境に変えることで生き延びる特殊な能力を持っているのです。まさに胃の中で生き抜くために進化した細菌といえるでしょう。

ピロリ菌の感染経路はまだ完全には解明されていませんが、主に口を介した感染(経口感染)と考えられています。特に幼少期に感染するケースが多く、上下水道が十分に整備されていなかった時代に育った世代ほど感染率が高い傾向にあります。

ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜に炎症が起こります。この炎症が長期間続くと慢性胃炎へと進行し、医学的には「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」と呼ばれる状態になります。

さらに長期間にわたって炎症が続くと、胃粘膜の萎縮や腸上皮化生といった変化が生じ、一部の方では胃がんへと発展するリスクが高まります。

ピロリ菌が引き起こす病気とリスク

ピロリ菌感染が長期間続くと、様々な胃の病気を引き起こすリスクが高まります。特に注目すべきは、胃がんとの関連性です。

日本人のピロリ菌感染者は約3,500万人と推定されており、多くの方が自覚症状のないまま感染している状態です。ピロリ菌に感染している方が85歳までに胃がんに罹患する確率は、男性で約17%、女性で7.7%と報告されています。一方、非感染者ではそれぞれ1.0%、0.5%と大きな差があるのです。

ピロリ菌は胃がん以外にも、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の発症・再発と密接に関連しています。潰瘍患者さんのピロリ菌感染率は80〜90%と非常に高いことが分かっています。

また、胃MALTリンパ腫や特発性血小板減少性紫斑病など、胃以外の病気との関連も指摘されています。

これらのリスクを考えると、ピロリ菌に感染している場合は、適切な検査と除菌治療を受けることが重要です。特に胃がん予防の観点からは、早期の除菌が効果的とされています。

日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、ピロリ菌感染者全員に除菌療法を受けることを強く推奨しています。胃の健康を守るためにも、ピロリ菌検査を受けてみませんか?

ピロリ菌検査の種類と特徴

ピロリ菌の検査方法は大きく分けて、内視鏡を使う方法と使わない方法があります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

内視鏡を使わない検査方法

内視鏡検査を受けずに済むというメリットがあり、胃全体を診断できる「面診断」と呼ばれています。

尿素呼気試験は、診断薬を服用し、服用前後の呼気を集めて診断する方法です。簡単に行える上に精度が高く、現在の主流となっている検査法です。

抗体測定検査は、ピロリ菌に感染すると体内に作られる抗体を血液や尿から検出する方法です。過去の感染も含めて判定するため、現在の感染状況を正確に反映しない場合があります。

便中抗原検査は、便の中のピロリ菌の抗原を調べる方法です。非侵襲的で比較的精度が高いのが特徴です。

内視鏡を使う検査方法

内視鏡検査を利用して胃粘膜や胃組織の一部を採取して診断する方法です。胃の一部を調べる「点診断」となるため、偽陰性(実際は陽性なのに陰性と判定されること)の可能性があります。

迅速ウレアーゼ試験は、胃粘膜の一部を採取し、ピロリ菌が持つウレアーゼ酵素の活性を利用して判定します。特殊な反応液に粘膜を入れ、色の変化でピロリ菌の有無を判断します。

組織鏡検法は、採取した胃粘膜に特殊な染色を施し、顕微鏡でピロリ菌を直接観察する方法です。

培養法は、胃粘膜を採取してすりつぶし、ピロリ菌の発育環境で5〜7日間培養して判定します。

核酸増幅法は、内視鏡後の胃廃液をPCR検査にかけてピロリ菌とその薬剤感受性を調べる方法です。偽陰性が非常に少ない面診断が可能です。

ピロリ菌の検査は1つの方法だけでは偽陰性の可能性もあるため、疑わしい場合は複数の検査法を組み合わせて診断することが重要です。

ピロリ菌除菌治療の方法と成功率

ピロリ菌の除菌治療は、胃酸の分泌を抑える薬と2種類の抗生物質を組み合わせた「三剤併用療法」が基本となります。この3種類の薬を1日2回、7日間服用するのが標準的な治療法です。

胃酸を抑える薬には、従来のプロトンポンプ阻害薬(PPI)に加え、より強力な効果を持つカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)も使用されるようになりました。

一次除菌療法の成功率は約70〜90%と報告されています。もし一次除菌に失敗した場合は、抗生物質の種類を変えて二次除菌を行います。

二次除菌まで含めると、除菌成功率は約97〜99%にまで上昇します。つまり、ほとんどの方が一次または二次除菌で成功するということです。

除菌治療後は、必ず除菌が成功したかどうかを確認するための検査(除菌判定)を行います。当院では便中抗原検査による除菌判定を実施しています。

保険診療では2回まで除菌治療を行うことができます。万が一、二次除菌でも成功しなかった場合は、三次除菌という選択肢もありますが、これは保険適用外となるため自費診療となります。

除菌治療の副作用としては、軟便・下痢(10〜30%)、嘔気・味覚障害(2〜5%)、皮疹(1〜2%)などが報告されていますが、皮疹を除けばほとんどは服薬終了後に改善します。

また、除菌に成功すると約10%の方に一時的に胸やけや胃もたれなどの逆流性食道炎の症状が現れることがありますが、これは胃炎が改善して胃酸分泌が回復することによるもので、多くの場合は一過性で治療を必要としません。

除菌治療の対象となる方と保険適用

ピロリ菌の除菌治療は、2013年から保険適用の範囲が拡大され、より多くの方が治療を受けられるようになりました。現在、以下の5つの条件に当てはまる方が保険診療の対象となっています。

保険適用となる5つの条件

  1. 内視鏡検査で胃炎と診断された方(ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎)
  2. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍の方
  3. 胃MALTリンパ腫の方
  4. 特発性血小板減少性紫斑病の方
  5. 早期胃がんに対する内視鏡的治療後の方

特に1番目の「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」は2013年に保険適用となり、これによって多くの方が保険診療で除菌治療を受けられるようになりました。

ただし、除菌治療を受けるためには必ず内視鏡検査を受ける必要があります。これは胃の状態を確認し、適切な治療方針を立てるために重要なステップです。

上記の条件に当てはまらない方でも、ピロリ菌除菌を希望される場合は医師と相談の上、自費診療として治療を受けることも可能です。

胃がん予防の観点からは、ピロリ菌に感染している方は全員が除菌治療の対象となると考えられています。特に胃がんの家族歴がある方は、胃がんのリスクが2〜3倍高いとされており、積極的に検査・除菌を検討すべきでしょう。

あなたも胃の健康が気になるなら、一度検査を受けてみませんか?

除菌後のフォローアップと胃がんリスク

ピロリ菌の除菌に成功したからといって、胃がんのリスクがゼロになるわけではありません。除菌後も定期的な検査が必要な理由について説明します。

胃がんのリスクは、ピロリ菌を除菌することで約1/3程度にまで減少します。これは大きな効果ですが、それでもピロリ菌に一度も感染したことがない方と比べると、胃がんのリスクは75〜100倍ほど高い状態が続きます。

実際、除菌成功後も数年以内に、除菌成功者100人に1〜2人の割合で胃がんが発見されると報告されています。このため、除菌後も定期的に胃の検査(特に胃カメラ検査)を受けることが非常に重要です。

除菌後の再感染率は年率1%以下と言われており、除菌成功例でのピロリ菌の再陽性化率は0.2〜2%と低いことが報告されています。再陽性化の多くは、検査でも検出できないほどの微量のピロリ菌が胃の中に残っていて、それが増殖することによるものと考えられています。

また、除菌後に胃の状態が完全に元に戻るわけではありません。特に萎縮性胃炎が進行した状態で除菌した場合、胃粘膜の回復には時間がかかります。中には、逆流性食道炎や機能性ディスペプシアなどの症状が残る方もいます。

2025年4月に発表された国立がん研究センターの研究では、ピロリ菌除菌後の方でも、胃粘膜のDNAメチル化異常を測定することで、胃がんリスクを精密に予測できることが明らかになりました。今後はこのような検査も活用して、よりきめ細かなフォローアップが可能になるかもしれません。

当院では、ピロリ菌除菌後の方にも定期的な胃カメラ検査をお勧めしています。鎮静剤を使用した無痛内視鏡検査で、負担を最小限に抑えながら胃の健康状態を確認できます。

若年層のピロリ菌検査と除菌の重要性

ピロリ菌は主に幼少期に感染し、その後長期間にわたって胃に炎症を引き起こします。胃がん予防の観点からは、胃粘膜の萎縮が進む前、つまりできるだけ若いうちに除菌することが理想的です。

近年、中学生を対象としたピロリ菌検査が全国的に広がっています。2023年の全国調査によると、105の自治体が中学生に対するピロリ菌検査を実施しており、年間約5万人の中学生が検査を受けています。

中学生を対象とした検査では、主に尿中ピロリ菌抗体測定が一次検査として用いられ、陽性の場合は尿素呼気試験や便中抗原検査などで確認が行われます。感染が確定した場合は、本人と保護者の希望により除菌治療が行われます。

若年層での除菌は、将来の胃がんリスクを大きく低減できる可能性があります。胃粘膜の萎縮がほとんど進んでいない段階で除菌することで、胃がん予防効果が最大限に発揮されるからです。

また、若いうちに除菌することで、将来的な胃潰瘍や十二指腸潰瘍などのリスクも減らすことができます。

ピロリ菌の感染率は年々低下していますが、家族内感染の可能性もあるため、ご家族にピロリ菌感染者がいる場合は、お子さんも検査を受けることをお勧めします。

当院では、中学生・高校生を含む若年層の方にも適切なピロリ菌検査と除菌治療を提供しています。胃の健康は一生の財産です。早期発見・早期治療で、将来の胃の病気リスクを減らしましょう。

まとめ:ピロリ菌除菌で胃の健康を守るために

ピロリ菌は胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、そして胃がんなど、様々な胃の病気と密接に関連しています。日本人のピロリ菌感染者は約3,500万人と推定されており、多くの方が自覚症状のないまま感染している状態です。

ピロリ菌検査には内視鏡を使う方法と使わない方法があり、それぞれ特徴があります。検査で感染が確認された場合は、胃酸分泌抑制薬と2種類の抗生物質を組み合わせた除菌治療を行います。

一次除菌の成功率は約70〜90%、二次除菌まで含めると約97〜99%と非常に高い成功率です。除菌治療は保険適用の範囲も広がり、胃炎と診断された方も保険診療で治療を受けられるようになりました。

ただし、除菌に成功しても胃がんのリスクがゼロになるわけではありません。除菌後も定期的な胃カメラ検査でフォローアップすることが重要です。

若年層、特に中学生を対象としたピロリ菌検査と除菌も広がっており、早期に除菌することで将来の胃がんリスクを大きく低減できる可能性があります。

胃の健康は一生の財産です。ピロリ菌検査と除菌治療で、胃の病気リスクを減らし、健康な胃を維持しましょう。

当院では、鎮静剤を使用した無痛の胃カメラ検査や、最新の方法によるピロリ菌検査・除菌治療を提供しています。胃の調子が気になる方、ピロリ菌検査をご希望の方は、お気軽に石川消化器内科・内視鏡クリニックにご相談ください。

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.12

消化器内科を受診すべき症状と受診目安は?〜専門医が詳しく解説〜

消化器内科とはどのような診療科なのか

消化器内科は、食べ物の通り道である消化管(口から肛門まで)と、肝臓・胆のう・膵臓などの実質臓器に関する症状を診察・治療する診療科です。食道、胃、小腸、大腸といった消化管の病気から、肝臓、胆嚢、膵臓といった消化に関わる臓器の疾患まで幅広く対応しています。

消化器内科では、腹痛・吐き気・嘔吐・便秘・下痢・食欲不振・胸やけ・げっぷ・お腹の張りなどの症状を診ています。これらの症状が気になるときが、消化器内科を受診する目安となります。

風邪の症状である咳・鼻づまり・くしゃみなどは消化器の症状ではないため、消化器内科ではなく一般内科での受診をおすすめします。また、新型コロナウイルス感染症が疑われる発熱の場合も、発熱対応をしている内科を受診しましょう。

消化器内科を受診すべき主な症状

消化器内科を受診すべき症状は多岐にわたります。どのような症状があれば消化器内科を受診すべきか、具体的に見ていきましょう。

腹痛や胃痛は、消化器内科を受診する最も一般的な理由の一つです。みぞおちの痛みや下腹部痛など、お腹の痛み全般が対象となります。胃炎、胃潰瘍、腸炎、虫垂炎などが原因となることがあります。

特に痛みが強く、長時間続く場合や、痛みに加えて発熱や吐き気を伴う場合は、早めに受診することをおすすめします。

胃もたれや胸やけも消化器内科でよく診る症状です。胃が重苦しい、食後にもたれる感じ、胸やけがするといった症状は、逆流性食道炎や機能性ディスペプシア(消化不良)などが原因かもしれません。

下痢や便秘が続く場合も消化器内科の受診をおすすめします。ウイルス性腸炎から過敏性腸症候群まで様々な原因が考えられます。特に、普段と違う便通の変化が2週間以上続く場合は、一度専門医に相談しましょう。

吐き気・嘔吐は胃腸の不調による症状で、急性胃腸炎、食あたり、胃潰瘍の悪化などが原因として考えられます。特に嘔吐が激しく脱水症状がある場合や、嘔吐物に血液が混じる場合は早急に受診が必要です。

消化器内科で診断・治療できる主な疾患

消化器内科では様々な疾患の診断・治療を行っています。代表的なものをご紹介します。

食道の疾患

逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流することで起こる炎症です。胸やけや胸の痛み、喉の違和感などの症状が特徴的です。食道がんは早期発見が重要で、進行すると飲み込みにくさなどの症状が現れます。

食道裂孔ヘルニアは、胃の一部が横隔膜の食道裂孔を通って胸腔内に入り込む状態です。胸やけや胸痛の原因となることがあります。

胃の疾患

胃炎は胃の粘膜に炎症が起きる状態で、急性と慢性があります。ピロリ菌感染や薬剤、ストレスなどが原因となることが多いです。胃潰瘍は胃の粘膜や粘膜下層が損傷した状態で、みぞおちの痛みや胃もたれなどの症状が現れます。

機能性ディスペプシアは、胃もたれや胃の痛みなどの症状があるにもかかわらず、内視鏡検査などで器質的な異常が見つからない機能的な障害です。ストレスや生活習慣が関与していることが多いです。

胃がんは日本人に多いがんの一つで、早期発見・早期治療が重要です。初期には症状がないことも多く、定期的な検診が大切です。

腸の疾患

過敏性腸症候群は、腹痛と便通異常(下痢や便秘)を繰り返す機能性疾患です。ストレスや食事との関連が指摘されています。

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)は、腸に慢性的な炎症が起こる疾患です。血便や腹痛、下痢などの症状が特徴的です。

大腸ポリープは大腸の粘膜から突出した隆起性病変で、多くは良性ですが、一部は大腸がんに進行する可能性があります。大腸がんは早期発見すれば内視鏡治療で完治することも多い疾患です。

肝臓・胆嚢・膵臓の疾患

消化器内科では、消化管だけでなく肝臓・胆嚢・膵臓の疾患も診療しています。

肝臓の疾患

肝炎はウイルス感染(B型・C型肝炎ウイルスなど)やアルコール、薬剤、脂肪の蓄積などによって肝臓に炎症が起こる疾患です。慢性化すると肝硬変や肝がんのリスクが高まります。

脂肪肝は肝臓に脂肪が蓄積した状態で、アルコールの過剰摂取や肥満、糖尿病などが原因となります。初期には自覚症状がほとんどありませんが、進行すると肝機能障害を引き起こすことがあります。

肝硬変は肝臓の線維化が進行した状態で、肝機能の低下や門脈圧亢進症による食道静脈瘤などの合併症を引き起こします。肝がんは肝細胞が悪性化したもので、肝硬変患者さんに発生することが多いです。

胆嚢・胆道の疾患

胆石症は胆嚢や胆管に結石ができる疾患です。右上腹部痛や背部痛、発熱などの症状が現れることがあります。胆嚢炎・胆管炎は胆石などが原因で胆嚢や胆管に炎症が起こる状態で、激しい腹痛や発熱、黄疸などの症状が現れます。

胆嚢ポリープは胆嚢内に生じる隆起性病変で、多くは良性ですが、大きさや形状によっては悪性の可能性もあります。胆道がん(胆嚢がん・胆管がん)は初期症状に乏しく、進行してから黄疸などの症状で発見されることが多いです。

膵臓の疾患

急性膵炎は膵酵素の活性化により膵臓自体が消化されて起こる急性炎症で、激しい腹痛や嘔吐などの症状が特徴です。慢性膵炎は膵臓の慢性的な炎症により、膵機能が徐々に低下していく疾患です。

膵がんは初期症状に乏しく、進行してから黄疸や腹痛などの症状が現れることが多い予後不良のがんです。早期発見が難しいため、リスク因子を持つ方は定期的な検査が重要です。

消化器内科での検査方法

消化器内科では様々な検査を行い、症状の原因を特定します。主な検査方法をご紹介します。

血液検査・尿検査

血液検査では、貧血・炎症反応・電解質バランス・腎機能・血糖値などの一般検査のほか、肝機能検査、肝炎ウイルス検査、ピロリ菌検査、がんの状態を調べる腫瘍マーカーなどを調べることができます。

尿検査では、尿中のビリルビンや尿ウロビリノーゲンなどを調べることで、肝臓や胆道系の異常を発見することができます。

内視鏡検査

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)は、口または鼻から内視鏡を挿入し、食道・胃・十二指腸を直接観察する検査です。胃炎や逆流性食道炎、潰瘍、がん・ポリープなどの病変を発見することができます。

下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)は、肛門から内視鏡を挿入し、大腸全体を観察する検査です。大腸ポリープや大腸がん、炎症性腸疾患などの診断に役立ちます。

小腸内視鏡検査(ダブルバルーン内視鏡、カプセル内視鏡)は、従来検査が難しかった小腸の観察を可能にした検査方法です。原因不明の消化管出血や小腸腫瘍の診断などに用いられます。

画像検査

腹部超音波検査(エコー)は、肝臓、胆嚢、膵臓、脾臓などの臓器の状態を非侵襲的に観察できる検査です。脂肪肝や胆石、腫瘍などの診断に役立ちます。

CT検査は、X線を用いて体の断層画像を撮影する検査で、腹部全体の詳細な観察が可能です。腫瘍の有無や大きさ、周囲臓器との関係などを評価することができます。

MRI検査は、磁気を利用して体の断層画像を撮影する検査で、特に軟部組織の描出に優れています。MRCP(MR胆管膵管撮影)は、胆管や膵管の状態を非侵襲的に観察できる検査です。

消化器内科を受診する目安と注意点

消化器内科を受診すべきタイミングや、受診時の注意点についてご説明します。

受診を検討すべき症状と状況

次のような症状や状況がある場合は、消化器内科の受診を検討しましょう。

  • 腹痛や胃痛が続く、または強い痛みがある
  • 吐き気や嘔吐が続く、または嘔吐物に血液が混じる
  • 胸やけや胃もたれが続く
  • 便秘や下痢が2週間以上続く
  • 便に血液が混じる、または黒い便が出る
  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)がある
  • 原因不明の体重減少や食欲不振がある
  • 健康診断で肝機能異常や便潜血陽性を指摘された

特に、以下のような緊急性の高い症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。

  • 激しい腹痛が続く
  • 吐血や下血がある
  • 高熱を伴う腹痛がある
  • 腹部が硬く張っている
  • 意識障害や強い倦怠感がある

受診時の注意点

消化器内科を受診する際は、以下の点に注意しましょう。

まず、腹部の検査は基本的に空腹の状態で行うため、なるべく直前の食事は摂らないでください。特に腹痛や吐き気などのお腹の症状があって受診するときは、食事を摂らずに受診したほうがすぐに検査できる場合があります。

また、症状の詳細をメモしておくと診察がスムーズに進みます。いつから症状が始まったか、どのような状況で症状が出るか、痛みの場所や性質、食事との関連などを記録しておくと良いでしょう。

服用中の薬がある場合は、お薬手帳や薬の名前がわかるものを持参してください。特に胃薬や痛み止め、抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)は消化器症状や検査に影響を与えることがあります。

消化器内科での治療法

消化器内科では、症状や疾患に応じて様々な治療法が選択されます。主な治療法をご紹介します。

薬物療法

消化器疾患の多くは、まず薬物療法が行われます。胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬、H2ブロッカーなど)、胃腸の動きを整える薬(消化管運動改善薬)、腸の炎症を抑える薬(5-ASA製剤、ステロイド、免疫調節薬など)、肝機能を改善する薬(肝庇護薬)などが使用されます。

また、ウイルス性肝炎に対する抗ウイルス薬、ピロリ菌感染に対する除菌療法、がんに対する抗がん剤治療なども行われます。

内視鏡治療

内視鏡を用いた治療は、消化器内科の大きな特徴の一つです。早期の消化管がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)や内視鏡的粘膜切除術(EMR)、大腸ポリープに対するポリペクトミーなどが行われます。

また、消化管出血に対する内視鏡的止血術、食道静脈瘤に対する内視鏡的結紮術、胆石や膵石に対する内視鏡的結石除去術、胆管・膵管狭窄に対するステント留置術なども行われます。

インターベンショナルラジオロジー

画像診断装置を用いて行う低侵襲治療も消化器疾患の治療に用いられます。肝がんに対するラジオ波焼灼療法(RFA)や肝動脈塞栓術(TAE)、膵がんなどによる閉塞性黄疸に対する経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)などが代表的です。

生活習慣の改善・食事療法

多くの消化器疾患は生活習慣と密接に関連しています。適切な食事、適度な運動、禁煙、節酒などの生活習慣の改善が治療の基本となることも少なくありません。

特に、逆流性食道炎や過敏性腸症候群、脂肪肝などは、生活習慣の改善だけで症状が軽減することもあります。医師や栄養士の指導のもと、疾患に応じた食事療法を行うことも重要です。

消化器疾患の予防と日常生活での注意点

消化器疾患を予防し、健康な消化器を維持するための日常生活での注意点をご紹介します。

バランスの良い食生活

消化器の健康を維持するためには、バランスの良い食生活が基本です。野菜、果物、全粒穀物などの食物繊維を十分に摂取し、脂肪や糖分の過剰摂取を避けましょう。

また、規則正しい食事時間を心がけ、よく噛んでゆっくり食べることも大切です。過食や早食いは消化器に負担をかけ、様々な症状の原因となります。

適度な運動習慣

適度な運動は、腸の蠕動運動を促進し、便秘の予防に役立ちます。また、肥満を防ぐことで、脂肪肝や胆石症などのリスクも低減できます。

ウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動を週に3回以上、30分程度行うことを目標にしましょう。

アルコールと喫煙

過度のアルコール摂取は、肝臓や膵臓に大きな負担をかけます。アルコールは適量を守り、週に2日以上の休肝日を設けることをおすすめします。

喫煙は食道がんや胃がん、膵がんなどのリスク因子となります。禁煙することで、これらのがんのリスクを低減できます。

定期的な健康診断

消化器疾患、特にがんは早期発見が重要です。40歳以上の方は、年に1回の健康診断を受け、胃がん検診や大腸がん検診を定期的に受けることをおすすめします。

また、肝炎ウイルス検査やピロリ菌検査も、一度は受けておくと良いでしょう。

まとめ

消化器内科は、食道から肛門までの消化管と、肝臓・胆嚢・膵臓などの実質臓器に関する疾患を診療する診療科です。腹痛、胃もたれ、下痢、便秘など、日常生活でよく経験する症状の多くが消化器内科の受診対象となります。

消化器疾患は早期発見・早期治療が重要です。特に、長引く症状や、血便、黄疸、急激な体重減少などの警告症状がある場合は、すぐに消化器内科を受診しましょう。

当院では、鎮静剤(麻酔)を使用した無痛の内視鏡検査を提供しており、「辛い・苦しい」というイメージのある胃カメラ・大腸カメラ検査を「より気軽に」「よりスピーディーに」、そして安心して受けていただける体制を整えています。

また、高性能な拡大内視鏡を導入し、特殊な光によって粘膜の微細な変化まで観察できる大学病院レベルの検査が可能です。患者様の利便性を考慮し、初診当日の検査や土曜日の検査にも対応しています。

消化器の健康は全身の健康につながります。気になる症状があれば、お気軽に石川消化器内科・内視鏡クリニックにご相談ください。

詳細な情報や予約方法については、石川消化器内科・内視鏡クリニックの公式サイトをご覧ください。皆様の健康管理を誠心誠意サポートいたします。

 

 

 

 

 

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.01

痔の放置は危険?自然治癒と専門治療の正しい選択とは

痔の症状と種類〜放置するリスクを理解する

痔の症状に悩まされている方は少なくありません。「このまま放置しても大丈夫だろうか」「自然に治るのを待った方がいいのか」と迷われる方も多いでしょう。

痔は肛門の病気の総称で、主に「いぼ痔(痔核)」「切れ痔(裂肛)」「痔ろう」の3種類に分けられます。それぞれ症状や進行度によって治療法が異なるため、正しい知識を持つことが重要です。

痔の放置は思わぬリスクを伴います。軽度の症状であれば自然治癒する可能性もありますが、悪化すると日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、より深刻な病気を見逃す可能性もあるのです。

いぼ痔(痔核)の症状と進行度

いぼ痔は最も一般的な痔の症状で、肛門の内側にできる「内痔核」と外側にできる「外痔核」に分けられます。肛門の中間あたり、直腸粘膜と皮膚の境目を「歯状線」と言い、この内側にできるものを内痔核、外側にできるものを外痔核と呼びます。

内痔核は比較的痛みが少ないのが特徴です。主な症状は排便時の出血で、トイレットペーパーに付く程度から便器が赤くなるほどの出血まで様々です。進行すると排便時に肛門から飛び出す脱肛の症状が現れることもあります。

内痔核は進行度によって4段階に分類されます。

  • 1度:いぼが常に歯状線の内側に留まっている段階。時々、出血や痛みがあります。
  • 2度:排便時などのいきんだ拍子にいぼが歯状線の外側に出てしまい(脱肛)、その後自然に元に戻ります。
  • 3度:排便時などにいぼが出て、自然には戻らず、指などで戻す必要があります。
  • 4度:常にいぼが歯状線の外に出ている状態。さらに悪化すると「嵌頓痔核」となり、肛門周囲がひどく腫れ、強い痛みを伴います。

一方、外痔核は歯状線の外側にできるいぼ痔で、皮膚の上にできるため痛みを伴うことが多いです。急に腫れる「血栓性外痔核」は特に強い痛みを感じます。

切れ痔(裂肛)と痔ろうの症状

切れ痔は肛門の粘膜に傷ができる状態です。硬い便による排便時の痛みと出血が主な症状です。便秘や下痢を繰り返すことで悪化しやすく、慢性化すると治りにくくなります。

痔ろうは肛門腺という小さな腺から細菌が入り込み、炎症を起こして膿がたまる状態です。肛門周囲の皮膚に膿を出すためのトンネル(瘻管)ができ、そこから膿が出続けます。痔ろうは自然治癒がほとんど期待できず、放置すると悪化するため注意が必要です。

鮫島病院の鮫島隆志院長によると、「痔ろうは10年以上放置するとがん化した例があります。定年退職後にゆっくり治そうと放っておいた結果、がんになっていたということもある」とのことです。痔ろうの放置は非常に危険といえるでしょう。

痔は自然治癒する?医学的見解と現実

「痔は自然に治るのだろうか?」これは多くの患者さんが抱く疑問です。結論から言うと、痔の種類や進行度によって自然治癒の可能性は大きく異なります。

軽度のいぼ痔や切れ痔は、生活習慣の改善や適切なセルフケアによって症状が緩和し、自然治癒する可能性があります。しかし、進行した痔や痔ろうは自然治癒がほとんど期待できません。

痔の自然治癒に関して、いくつかの重要なポイントを見ていきましょう。

いぼ痔の自然治癒の可能性

いぼ痔(痔核)は初期段階であれば、適切なセルフケアによって症状が改善する可能性があります。特に1度から2度の内痔核は、生活習慣の改善(食物繊維の摂取増加、十分な水分補給、適度な運動など)によって症状が緩和することがあります。

しかし、3度以上に進行した内痔核や、強い痛みを伴う外痔核(特に血栓性外痔核)は、自然治癒を期待するのは難しいでしょう。これらの場合は専門的な治療が必要となります。

血栓性外痔核は、発症から48〜72時間以内であれば、専門医による切開排血処置で劇的に症状が改善することがあります。放置すると痛みは徐々に和らぐものの、いぼとして残ってしまう可能性があります。

切れ痔と痔ろうの自然治癒

切れ痔(裂肛)は初期であれば、便通の改善や局所的なケアによって自然治癒する可能性があります。しかし、慢性化すると肛門の括約筋が緊張して血流が悪くなり、治りにくくなります。

痔ろうに関しては、自然治癒はほとんど期待できません。所沢肛門病院の栗原浩幸院長によると、「痔ろうの患者さんには、複雑化する前に手術を勧めています。再発を繰り返すうちに膿が今までとは違う場所から出たりして複雑な形になることがあるからです」とのことです。

痔ろうは放置すると悪化するだけでなく、長期間(10年以上)の放置によってがん化するリスクもあります。このことからも、痔ろうは早期の専門的治療が必要といえるでしょう。

 

痔を放置するリスク〜見逃せない危険信号

痔の症状を放置することには、様々なリスクが伴います。特に注意すべきは、痔と似た症状を示す他の深刻な疾患を見逃してしまう可能性です。

出血や痛みといった症状は、大腸がんなどの重大な病気のサインである可能性もあります。札幌いしやま病院の石山元太郎理事長は「一番やってはいけないのが、何度も出血を繰り返しているのに勝手に痔だと思い込んで放置しておくことです。大腸がんのリスクもあるからです」と警告しています。

大腸がんとの見分け方と注意点

痔と大腸がんは症状が似ていることがあり、特に出血症状は両方に共通しています。松田病院の松田聡院長によると、「痔の手術をする前の患者さんに大腸カメラを施行すると約13%の人にポリープが見つかり、0.4%の人にがんが見つかる」とのことです。

以下のような症状がある場合は、痔だと自己判断せず、専門医の診察を受けることが重要です。

  • 繰り返しの出血(特に1年以上続くもの)
  • 便の形状の変化(細くなった、柔らかい便しか出ないなど)
  • 排便習慣の変化(便秘や下痢が続くなど)
  • 原因不明の体重減少や食欲不振
  • 強い痛みや違和感が続く

岡崎外科消化器肛門クリニックの岡崎啓介院長は「おしりからの出血の場合、一番にがんを疑わなければなりません。安易におしりの病気と診断せず、まずはがんのリスクを疑い、そのリスクを消してあげることは、私たち医師の責任でもあります」と述べています。

痔ろうの放置による合併症

痔ろうを放置すると、膿瘍が広がり、複雑な瘻管(ろうかん)を形成することがあります。これにより手術が困難になるだけでなく、長期間の放置によってがん化するリスクもあります。

痔ろうは保存療法ではほとんど治癒せず、完治させるためには手術が必要です。早期に適切な治療を受けることで、より簡単な手術で済み、回復も早くなります。

痔の専門的治療法〜最新の選択肢

痔の症状が重い場合や自然治癒が期待できない場合は、専門的な治療が必要になります。現在では様々な治療法があり、症状や進行度に応じて最適な方法が選択されます。

ここでは、いぼ痔(痔核)と痔ろうの主な治療法について解説します。

いぼ痔の治療法

いぼ痔(痔核)の治療法は、症状の程度によって異なります。軽度から中等度の場合は保存的治療が選択されますが、重度の場合は手術が必要になることがあります。

主な治療法には以下のようなものがあります。

  • 薬物療法:内服薬や外用薬を使用して、腫れ、痛み、出血などの症状を緩和します。薬物療法によってほとんどの症状は改善されますが、いぼそのものがなくなるわけではありません。
  • ジオン注射(ALTA療法):痔核へと流れ込む血液の量を減らし、線維化させる薬剤を注射する治療です。「切らない内痔核治療」として注目されていますが、内痔核の治療にのみ適用されます。
  • ゴム輪結紮療法:輪ゴムで痔核を結紮し、血流を断つことで痔核を脱落させます。簡便で痛みも少ないというメリットがありますが、術後の出血には注意が必要です。
  • 結紮切除術:古くから行われている手術で、どのような痔核にも対応できます。痔核に栄養を届ける動脈を結紮(縛ること)し、痔核そのものを取り除きます。

石川消化器内科・内視鏡クリニックでは、痛みの少ないALTA療法を提供しており、2023年7月にはこの治療法がドクターズファイルに掲載されました。ALTA療法は切らずに治療できるため、患者さんの負担が少ないのが特徴です。

痔ろうの治療法

痔ろうの治療は基本的に手術が必要です。主な手術法には以下のようなものがあります。

  • 従来の手術法:肛門内から肛門外の皮膚に貫通する膿が通るトンネル(瘻管)をくり抜き、輪ゴムを通して徐々に小さくしていく方法です。
  • 括約筋温存術(LIFT手術など):近年各専門病院で行われている方法で、筋肉を全く切らない手術です。膿の管を糸で縛って膿の交通を遮断し、外側の筋肉と関係ないところだけをくり抜きます。

痔ろうの手術では、麻酔も重要なポイントです。札幌いしやま病院では「仙骨硬膜外麻酔」を使用しており、これにより麻酔自体の痛みが軽減され、患者さんの負担が少なくなるとのことです。

 

痔の自己管理と予防法〜再発を防ぐために

痔の症状を改善し、再発を防ぐためには、日常生活での自己管理が非常に重要です。特に生活習慣の改善は、軽度の痔の自然治癒を促すだけでなく、治療後の再発予防にも効果的です。

ここでは、痔の自己管理と予防のための具体的な方法を紹介します。

効果的な生活習慣の改善

痔の予防と改善に効果的な生活習慣の改善点には、以下のようなものがあります。

  • 食物繊維の摂取:野菜、果物、全粒穀物などの食物繊維を多く含む食品を積極的に摂取しましょう。食物繊維は便のかさを増し、柔らかくすることで排便を容易にします。
  • 十分な水分補給:1日に1.5〜2リットルの水分を摂取することで、便が硬くなるのを防ぎます。特に食物繊維を増やす場合は、水分摂取も増やすことが重要です。
  • 適度な運動:定期的な運動は腸の働きを活発にし、便秘の予防に役立ちます。ウォーキングや水泳など、無理のない運動を継続しましょう。
  • トイレを我慢しない:便意を感じたらなるべく早くトイレに行きましょう。便意を我慢すると便が硬くなり、排便時に強くいきむ必要が生じます。
  • 長時間のトイレ滞在を避ける:トイレで長時間座っていると、肛門周辺の血流が悪くなります。スマートフォンや本を読むなどの習慣は控えましょう。
  • 適切な排便姿勢:膝を腰より高い位置に上げると、直腸と肛門の角度が自然になり、いきまずに排便しやすくなります。

これらの生活習慣の改善は、痔の症状を和らげるだけでなく、便秘や下痢といった痔の原因となる症状の改善にも効果的です。

市販薬の適切な使用法

軽度の痔の症状には、市販薬が効果的な場合があります。特に外痔核は、市販の軟膏タイプの薬を使用して自己治療できることもあります。

しかし、市販薬には以下のような注意点があります。

  • 内痔核と外痔核では適切な薬剤が異なります。症状に合った薬を選びましょう。
  • 市販薬で症状が改善しない場合や、2週間以上症状が続く場合は、専門医の診察を受けましょう。
  • 出血が続く場合は、痔以外の病気の可能性もあるため、自己判断せず医療機関を受診しましょう。

市販薬はあくまで対症療法であり、根本的な治療ではありません。症状が重い場合や繰り返す場合は、専門医による適切な診断と治療が必要です。

消化器・内視鏡専門医による診察と検査

 

痔の専門医を受診するタイミング〜見極めのポイント

痔の症状があるとき、「このくらいなら自然に治るだろう」と考えて放置してしまうことがありますが、適切なタイミングで専門医を受診することが重要です。

では、どのようなタイミングで医療機関を受診すべきでしょうか。ここでは、痔の種類別に受診の目安を紹介します。

内痔核・外痔核の受診目安

内痔核の場合、以下のような症状があれば医療機関を受診しましょう。

  • 排便時に繰り返し出血がある
  • 排便時にいぼが脱出し、自分で戻せない
  • いぼが常に脱出したままになっている
  • 市販薬を使用しても2週間以上症状が改善しない
  • 痛みや違和感が強く、日常生活に支障がある

外痔核の場合は、以下のような症状があれば受診が必要です。

  • 強い痛みを伴う腫れがある
  • 腫れが急に大きくなった(血栓性外痔核の可能性)
  • 市販薬を使用しても症状が改善しない
  • 出血が続く

特に血栓性外痔核は、発症から48〜72時間以内に専門医による処置を受けると、痛みが劇的に改善することがあります。早めの受診が重要です。

切れ痔・痔ろうの受診目安

切れ痔(裂肛)の場合、以下のような症状があれば受診しましょう。

  • 排便時に強い痛みがある
  • 出血が続く
  • 市販薬を使用しても症状が改善しない
  • 慢性的に症状を繰り返す

痔ろうの場合は、以下のような症状があれば早急に受診が必要です。

  • 肛門周囲に膿がたまり、痛みや腫れがある
  • 肛門周囲の皮膚から膿や分泌物が出る
  • 発熱や全身倦怠感がある

痔ろうは自然治癒がほとんど期待できないため、症状があれば早めに専門医を受診することが重要です。

まとめ〜痔の放置と専門治療の選択

痔の症状は多くの方が経験するものですが、放置することで悪化したり、より深刻な病気を見逃したりするリスクがあります。

軽度のいぼ痔や切れ痔は、生活習慣の改善や適切なセルフケアによって自然治癒する可能性もありますが、症状が重い場合や長期間続く場合は、専門医による適切な診断と治療が必要です。

特に注意すべきは、痔と似た症状を示す大腸がんなどの重大な疾患を見逃さないことです。繰り返しの出血や便の形状の変化などがある場合は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。

痔ろうに関しては、自然治癒はほとんど期待できず、放置することで複雑化したり、長期間の放置でがん化するリスクもあります。早期の専門的治療が重要です。

石川消化器内科・内視鏡クリニックでは、痛みの少ないALTA療法など、患者さんの負担を軽減する治療法を提供しています。痔の症状でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

痔の症状は恥ずかしいと感じて受診をためらう方も多いですが、早期の適切な治療によって症状の改善や合併症の予防が可能です。自分の健康のために、適切なタイミングで専門医を受診することをお勧めします。

当院では患者さんのプライバシーに配慮した診療を心がけておりますので、些細な症状でもお気軽にご相談ください。

詳しい情報や診療時間については、石川消化器内科・内視鏡クリニックの公式サイトをご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.01

粉瘤の手術は痛くない?日帰り治療の全知識

粉瘤とは?基本知識と症状

皮膚の下にしこりを感じたことはありませんか?それは「粉瘤(ふんりゅう)」かもしれません。粉瘤は別名「アテローム」や「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」とも呼ばれる良性腫瘍です。皮膚の内側に袋状の構造物ができ、本来皮膚から剥がれ落ちるはずの角質や皮脂などの老廃物が袋の中に溜まってしまうことで発生します。

この袋の中に溜まった老廃物は外に排出されないため、時間とともに少しずつ大きくなっていきます。初期の段階では小さなしこりとして現れますが、放置すると袋状に変化し、大きくなっていくのが特徴です。

粉瘤は身体のどこにでもできる可能性がありますが、特に顔、首、背中、耳の後ろなどにできやすい傾向があります。やや盛り上がった数ミリから数センチの半球状のしこりとして現れ、中央に黒点状の開口部があることが多いです。

粉瘤の特徴的な症状として、強く圧迫すると中央の開口部からドロドロとした白っぽい物質が出てくることがあります。この内容物は特有の臭いを持っていることが多く、これが粉瘤の特徴の一つです。

ニキビと間違われることもありますが、大きな違いがあります。ニキビは自然治癒することが多いのに対し、粉瘤は皮膚の奥にできる腫瘍のため、自然に治ることはありません。また、ニキビと違って独特の臭いを放つことも特徴です。

 

粉瘤の手術は本当に痛くない?麻酔の種類と効果

「粉瘤の手術は痛いのでは?」と心配される方は多いです。結論からいうと、適切な麻酔を使用すれば、手術中の痛みはほとんど感じません。実際の手術では局所麻酔を使用するため、麻酔注射時にわずかな痛みを感じる程度です。

私が日々の診療で行っている粉瘤手術では、患者さんの痛みを最小限に抑えるために細心の注意を払っています。麻酔注射の際には極めて細い針を使用し、注射の痛みを「ちょっとした筋肉痛程度」と表現される方がほとんどです。麻酔が効いてしまえば、その後の手術操作による痛みはほぼ感じません。

麻酔には主に以下の種類があります:

  • 局所麻酔:粉瘤の周囲に直接麻酔薬を注射し、その部分のみを麻痺させる方法です。日帰り手術で最も一般的に使用されます。
  • 表面麻酔:皮膚表面に麻酔クリームを塗布して、注射の痛みを軽減する方法です。特に痛みに敏感な方や子どもに使用されることがあります。
  • 全身麻酔:大きな粉瘤や複数の粉瘤を同時に切除する場合など、特殊なケースで使用されることがあります。

一般的な粉瘤の手術では局所麻酔が十分効果的です。麻酔が効くまでには約5分程度かかりますが、その後は痛みを感じることなく手術を受けることができます。

患者さんの中には「麻酔の注射が怖い」という方もいらっしゃいますが、現在は非常に細い針を使用するため、チクッとした痛みを感じる程度です。また、麻酔薬を体温に近い温度にしたり、ゆっくりと注入したりすることで、痛みをさらに軽減する工夫も行っています。

粉瘤の日帰り手術の流れと所要時間

粉瘤の日帰り手術は、一般的に30分程度で終了する比較的簡単な処置です。手術の流れを詳しく見ていきましょう。

まず診察で粉瘤と確定診断されると、その日のうちに手術が可能なケースも多いです。特に小さな粉瘤(5mm程度)であれば、診察後すぐに手術を行うことができます。

手術前の準備

手術前には、手術部位の消毒を行います。清潔な環境で手術を行うために、手術部位の周囲を消毒用アルコールや消毒液でしっかりと消毒します。その後、清潔なドレープ(布)で手術部位以外を覆います。

手術の実施

局所麻酔を注射した後、麻酔が効いてきたら(約5分後)、手術を開始します。粉瘤の手術方法には主に「切開法」と「くりぬき法(パンチ法)」の2種類があります。

  • 切開法:粉瘤の上の皮膚を小さく切開し、袋ごと粉瘤を摘出する方法です。比較的大きな粉瘤や炎症を起こしている粉瘤に適しています。
  • くりぬき法(パンチ法):特殊な器具(パンチ)を使って粉瘤に小さな穴を開け、そこから内容物と袋を取り出す方法です。傷跡が小さく済むため、美容的に目立ちにくい利点があります。

手術中は痛みをほとんど感じませんが、圧迫感や引っ張られる感覚はあるかもしれません。手術時間は粉瘤の大きさや場所によって異なりますが、一般的には5〜20分程度です。

手術後の処置

粉瘤を摘出した後は、傷口を縫合します。使用する糸は自然に溶ける吸収糸の場合と、後日抜糸が必要な非吸収糸の場合があります。その後、傷口に消毒薬を塗り、ガーゼや保護テープで覆います。

手術直後から痛みを感じる方もいますが、多くの場合は軽度で、市販の痛み止めで対応できる程度です。医師から処方される痛み止めを服用すれば、痛みの心配はほとんどありません。

炎症を起こした粉瘤の対処法と手術のタイミング

粉瘤に細菌が侵入すると、炎症を起こすことがあります。これを「炎症性粉瘤」と呼びます。赤み、腫れ、熱感、強い痛みなどの症状が現れ、膿が溜まることもあります。

炎症を起こした粉瘤は非常に痛みを伴うことがあります。なぜなら、粉瘤の袋の中には本来、体内に入った菌などを排除する免疫機能を担う細胞が存在していないため、細菌感染に弱いという性質があるからです。

炎症を起こした粉瘤を自己判断で潰したり、触ったりするのは厳禁です。細菌感染を悪化させ、より広範囲に炎症が広がる可能性があります。特に顔面の粉瘤は、炎症が脳に近い部位に波及する危険性もあるため、専門医の診察を早急に受けることが重要です。

炎症性粉瘤の対処法は、その状態によって異なります:

  • 軽度の炎症の場合:抗生物質の内服や外用薬で炎症を抑え、落ち着いてから手術を行います。
  • 強い炎症や膿がたまっている場合:まず排膿処置(切開して膿を出す)を行い、炎症が落ち着いてから改めて粉瘤の摘出手術を行います。

では、粉瘤の手術を受けるベストなタイミングはいつでしょうか?基本的には、炎症を起こしていない状態が手術に適しています。炎症がある場合は、まず炎症を抑える治療を行い、落ち着いてから手術を検討します。

しかし、炎症を繰り返す粉瘤や大きくなってきた粉瘤は、早めに手術を受けることをお勧めします。小さいうちに手術を受ければ、手術時間も短く、傷跡も小さく済みます。

粉瘤を見つけたら、「痛くないから」と放置せず、一度専門医に相談することが大切です。適切な時期に適切な治療を受けることで、より安全で効果的な治療が可能になります。

粉瘤手術後の注意点と回復期間

粉瘤の手術後は、適切なケアを行うことで順調な回復が期待できます。手術後の注意点と回復期間について詳しく見ていきましょう。

手術当日の注意点

手術当日は、激しい運動や入浴(シャワーは可能な場合が多い)を避けることが一般的です。また、アルコールの摂取も控えましょう。手術部位に痛みがある場合は、処方された痛み止めを指示通りに服用してください。

手術部位は清潔に保つことが重要です。医師から特別な指示がない限り、手術当日からシャワーを浴びることができる場合が多いです。ただし、傷口を直接こすらないよう注意しましょう。

手術後数日間の過ごし方

手術後数日間は、傷口の保護と感染予防が最も重要です。医師の指示に従って、傷口の消毒やガーゼ交換を行いましょう。一般的には、以下のようなケアが必要です:

  • 傷口を清潔に保つ(指示された方法で消毒)
  • ガーゼ交換(医師の指示に従う)
  • 傷口が濡れないよう注意(入浴時はラップなどで保護)
  • 激しい運動や重い物の持ち上げを避ける

手術後に異常な痛み、出血、発熱、傷口からの膿などの症状がある場合は、すぐに医師に相談してください。これらは感染の兆候かもしれません。

回復期間と傷跡について

粉瘤手術後の回復期間は、粉瘤の大きさや場所、手術方法によって異なります。一般的には以下のような経過をたどります:

  • 1週間以内:傷口の痛みや腫れがピークを迎え、その後徐々に軽減
  • 1〜2週間後:抜糸(非吸収糸を使用した場合)
  • 2〜4週間後:日常生活に完全復帰可能

傷跡については、手術方法や個人の肌質、手術部位によって異なります。くりぬき法では傷跡が小さく済みますが、大きな粉瘤の場合は切開法が必要となり、やや大きな傷跡が残ることがあります。

傷跡を目立たなくするためには、日焼けを避け、医師の指示に従ったケアを行うことが重要です。必要に応じて、傷跡用のクリームやテープを使用することもあります。

粉瘤の手術は比較的簡単な処置ですが、適切なアフターケアを行うことで、より良い治癒と美容的な結果が期待できます。不安なことがあれば、遠慮なく担当医に相談しましょう!

 

粉瘤手術の費用と保険適用について

粉瘤の手術費用について気になる方も多いでしょう。良いニュースとして、粉瘤の手術は基本的に健康保険が適用される治療です。診断、検査、手術、病理検査のすべてで保険適用が可能です。

健康保険を使用した場合の粉瘤手術の費用は、粉瘤の大きさや手術方法、病院の種類(診療所、総合病院など)によって異なりますが、一般的には以下のような費用が目安となります:

  • 初診料:約1,000〜3,000円
  • 手術費用:約5,000〜30,000円(粉瘤の大きさや数による)
  • 病理検査(必要な場合):約3,000〜10,000円

これらはあくまで目安であり、実際の費用は医療機関によって異なります。また、3割負担の場合の金額であり、高齢者や小児などは負担割合が異なる場合があります。

粉瘤の手術が保険適用となる条件は、基本的に「医学的に必要と判断される場合」です。具体的には以下のような状況が該当します:

  • 粉瘤が大きくなり、日常生活に支障をきたしている
  • 炎症を起こしている、または繰り返している
  • 痛みや不快感がある
  • 悪性の可能性を否定するために摘出が必要と判断される

一方、単に美容的な理由だけで粉瘤の除去を希望する場合は、保険適用外(自費診療)となることがあります。自費診療の場合、費用は医療機関によって大きく異なりますが、一般的には20,000〜100,000円程度です。

また、医療保険に加入されている方は、手術給付金を受けられる場合もあります。ご自身の保険内容を確認してみるとよいでしょう。

費用面で不安がある場合は、事前に医療機関に問い合わせることをお勧めします。また、複数の医療機関で見積もりを取ることも一つの方法です。

粉瘤の再発リスクと予防法

粉瘤の手術を受けた後、気になるのが再発のリスクです。粉瘤の再発率は、手術方法や粉瘤の状態によって異なります。

粉瘤の再発率は、袋(嚢胞壁)を完全に摘出できた場合は非常に低いとされています。しかし、炎症を起こしている場合や、袋の一部が残ってしまった場合は再発のリスクが高まります。

再発のリスク要因

粉瘤が再発する主な原因は以下のようなものです:

  • 袋の不完全な摘出:粉瘤の袋が完全に摘出されなかった場合、残った袋から再び粉瘤が発生することがあります。
  • 炎症性粉瘤の手術:炎症を起こしている粉瘤は、組織が脆くなっているため、袋を完全に摘出することが難しい場合があります。
  • 体質的要因:粉瘤ができやすい体質の方は、別の場所に新たな粉瘤ができることがあります。

再発を防ぐための対策

粉瘤の再発リスクを減らすためには、以下のような対策が有効です:

  • 専門医による適切な手術:粉瘤の手術に慣れた医師に手術を依頼することで、袋の完全摘出率が高まります。
  • 炎症がない状態での手術:可能であれば、炎症を起こしていない状態で手術を受けることが望ましいです。
  • 適切なアフターケア:医師の指示に従った傷口のケアを行うことで、感染リスクを減らし、治癒を促進します。
  • 定期的な皮膚チェック:新たな粉瘤の早期発見のため、定期的に皮膚の状態をチェックしましょう。

抗生物質による保存的治療(いわゆる「抗生剤で散らす」治療)を選択した場合、再発率は約30%と言われています。そのため、完全に治療するためには、最終的には外科的な摘出が必要となる場合が多いです。

粉瘤が再発した場合や、新たな粉瘤ができた場合は、早めに医師に相談することをお勧めします。小さいうちに対処することで、より簡単に、傷跡も小さく治療することができます。

まとめ:粉瘤治療で知っておくべきポイント

粉瘤の手術と治療について、重要なポイントをまとめてみましょう。

粉瘤は皮膚の内側に袋状の構造物ができ、角質や皮脂などの老廃物が溜まってできる良性腫瘍です。自然治癒することはなく、時間とともに大きくなる傾向があります。

粉瘤の手術は局所麻酔で行われるため、麻酔注射時にわずかな痛みを感じる程度で、手術中の痛みはほとんどありません。手術方法には主に「切開法」と「くりぬき法」があり、粉瘤の状態や場所によって適切な方法が選択されます。

手術は一般的に日帰りで行われ、所要時間は5〜30分程度です。手術後は適切なケアを行うことで、1〜2週間程度で日常生活に完全復帰できることがほとんどです。

粉瘤の手術は健康保険が適用されるため、経済的な負担も比較的軽いと言えます。ただし、単に美容的な理由だけの場合は、自費診療となることがあります。

粉瘤の再発を防ぐためには、袋を完全に摘出することが重要です。炎症を起こしている粉瘤は再発リスクが高まるため、可能であれば炎症がない状態での手術が望ましいです。

粉瘤を見つけたら、「痛くないから」「小さいから」と放置せず、早めに専門医に相談することをお勧めします。小さいうちに手術を受ければ、手術時間も短く、傷跡も小さく済みます。

最後に、粉瘤の治療や手術について不安や疑問がある方は、ぜひ専門医に相談してください。正確な診断と適切な治療計画を立てることで、安心して治療を受けることができます。

当院では粉瘤をはじめとする皮膚の腫瘍に対して、患者さん一人ひとりの状態に合わせた最適な治療を提供しています。些細なことでもお気軽にご相談ください。

詳細な情報や診療予約については、石川消化器内科・内視鏡クリニックのホームページをご覧いただくか、お電話でお問い合わせください。皆様の健康をサポートするために、誠心誠意対応させていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.01

大腸がん検診の種類と選び方〜早期発見のための最適な方法

大腸がん検診の重要性と現状

大腸がんは現在、日本人がかかるがんの中で最も罹患数が多く、年間15万人以上が診断されています。40年前と比較すると約6倍にまで増加しており、男性では前立腺がんに次いで第2位、女性では乳がんに次いで第2位の罹患率となっています。

さらに深刻なのは、大腸がんによる死亡者数です。毎年約5万人が大腸がんで命を落としており、男性では肺がんに次いで第2位、女性では死亡原因のがんとしては第1位となっています。

この増加の主な原因は、日本人の食生活の欧米化です。高脂肪の食品、特に牛肉・豚肉などの摂取量増加が大きく影響していると考えられています。女性の場合は、便秘による腸内環境の悪化も大腸がんリスクを高める要因として指摘されています。

大腸がんの怖さは、進行するまでほとんど自覚症状がないことです。早期発見できれば完治も十分可能ながんですが、症状が現れた時にはすでに進行している場合も少なくありません。だからこそ、定期的な検診が非常に重要なのです。

大腸がんの基礎知識と検診の必要性

大腸は、食べ物が通る順に「盲腸」、「上行結腸」、「横行結腸」、「下行結腸」、「S状結腸」、「直腸」に分けられます。「盲腸」から「S状結腸」までにできるがんを「結腸がん」、「直腸」にできるがんを「直腸がん」と呼び、これらを合わせて「大腸がん」と総称しています。

大腸がんは進行するまで明確な自覚症状がないことが特徴です。進行すると血便、便秘、下痢、貧血、腹痛、嘔吐などの症状が現れます。また、便が細くなった、便が残っている感じがするといった症状を訴える患者さんもいます。

がんは正常な組織ではないため出血しやすく、大腸にできたがんから出血すると、便に血液が付着して血便になったり、下血や貧血を起こすことがあります。また、がんが大きくなって便が通りにくくなると、便秘や下痢、腹痛などの症状が現れることもあります。

どうですか?心当たりはありませんか?

しかし、これらの症状は大腸がんが進行してから現れることが多いのです。早期発見・早期治療のためには、症状が出る前の定期的な検診が不可欠です。40歳以上の方は、年に1回の大腸がん検診を受けることが推奨されています。

大腸がん検診の種類と特徴

大腸がん検診には様々な種類があります。それぞれの特徴を理解し、自分に合った検査方法を選ぶことが大切です。ここでは主な検査方法について詳しく解説します。

便潜血検査(一次検診)

便潜血検査は、最も一般的な大腸がん検診の方法です。2日分の便を採取し、便に混じった血液(肉眼では見えない微量の血液)を検出する検査です。がんやポリープなどの大腸疾患があると大腸内に出血することがあり、その血液を検出します。

この検査は簡便で、痛みもなく、特別な準備も必要ありません。国が推奨する対策型検診として、40歳以上の方に年1回の受診が推奨されています。費用も比較的安価で、自治体によっては無料で受けられる場合もあります。

ただし、便潜血検査には限界もあります。がんやポリープが常に出血しているわけではないため、検査のタイミングによっては見逃す可能性があります。また、痔などの他の原因で血液が混じることもあるため、陽性結果が出ても必ずしもがんとは限りません。

便潜血検査で陽性結果が出た場合は、必ず精密検査(大腸内視鏡検査など)を受ける必要があります。ここで重要なのは、便潜血検査を再度受けることは精密検査の代わりにはならないということです。1日分でも陽性であれば、精密検査を受けましょう。

大腸内視鏡検査(精密検査)

大腸内視鏡検査(大腸カメラ)は、大腸がんの精密検査として最も精度が高い検査です。下剤で大腸を空にした後に肛門から内視鏡を挿入して、直腸から盲腸までの大腸全体を観察します。

この検査の最大の利点は、がんやポリープを直接目で見て確認できることです。さらに、検査中に組織を採取(生検)したり、小さなポリープであれば切除することも可能です。ポリープを切除することで、将来がんになる可能性のある前がん病変を取り除くことができます。

一方で、大腸内視鏡検査には以下のような短所もあります。検査前の食事制限や下剤による腸管洗浄が必要で、身体的・精神的負担が大きいこと。検査時間が20〜30分と比較的長く、内視鏡挿入時に痛みや不快感を伴うことがあります。また、まれに出血や穿孔(腸に穴が開く)などの合併症が起こる可能性もあります。

当院では、このような負担を軽減するために、鎮静剤(麻酔)を使用した無痛の大腸内視鏡検査を提供しています。半分眠ったような状態で検査を受けることができるため、痛みや恐怖をほとんど感じることなく検査を受けることが可能です。

大腸CT検査(CTコロノグラフィー)

大腸CT検査(CTコロノグラフィー)は、比較的新しい大腸がん検査方法です。大腸に炭酸ガスを注入し腸管を膨らませた状態でCT撮影を行い、3次元画像を作成して大腸の病気を診断します。

大腸内視鏡検査に比べて飲用する下剤量が少なく、体への負担が少ないのが特徴です。また、検査時間も約10〜15分と短時間で済みます。腹部の手術歴から癒着があり大腸カメラが入りにくい方や、痛みが心配で内視鏡検査を受ける決心がつかない方におすすめです。

さらに、大腸の診断だけでなく、CT装置で腹部全体を撮影するため、肝臓、膵臓、胆のう、腎臓、子宮、卵巣、前立腺などの腹部臓器も同時に診断できる利点があります。

ただし、この検査にも限界があります。組織の採取ができないため、異常が検出された場合は大腸内視鏡検査を受ける必要があります。また、病変の色や硬さの情報は得られず、平坦な病変や5mm以下の小さなポリープは検出しにくいという欠点もあります。X線を使用するため、妊娠の可能性のある方は受けることができません。

大腸がん検診の選び方と受け方

大腸がん検診を選ぶ際には、自分の状況や希望に合わせて最適な検査方法を選ぶことが大切です。以下に、検診の選び方と受け方についてのポイントをまとめました。

年齢と受診頻度

大腸がん検診は、40歳以上の方に年1回の受診が推奨されています。特に、大腸がんの家族歴がある方や、大腸ポリープの既往がある方は、より早期からの定期的な検診が重要です。

国が推奨する対策型検診では、40歳以上の方に対して便潜血検査を年1回実施することが基本となっています。便潜血検査で陽性となった場合は、必ず精密検査を受けることが重要です。

検診を受けたことがない方は、まず便潜血検査から始めるのが一般的です。ただし、より精度の高い検査を希望する場合や、大腸がんのリスクが高い方は、最初から大腸内視鏡検査や大腸CT検査を選択することも考えられます。

検診施設の選び方

大腸がん検診を受ける施設を選ぶ際には、以下のポイントを考慮するとよいでしょう。

便潜血検査については、勤務先で大腸がん検診があればそれを利用するとよいでしょう。それ以外の方は、40歳以上であれば市区町村で検診を受けられます。自己負担額は自治体によって異なりますが、無料から500円程度のところが多いようです。

大腸内視鏡検査を受ける場合は、経験豊かな医師による検査を受けることが重要です。見落としが少なく、精度の高い検診が受けられるだけでなく、検査時の苦痛も軽減される可能性が高くなります。

医療機関を選ぶ際のチェックポイントとしては、大腸内視鏡検査の実施件数やポリープ・早期がんの切除件数などを公表しているところ、拡大内視鏡の設備がある医療機関などが挙げられます。これらの情報はホームページで確認したり、医療機関に直接問い合わせたりして調べることができます。

当院では、消化器・内視鏡専門医である私が全ての診察、検査、検査結果説明までを担当しています。高性能な拡大内視鏡を導入しており、特殊な光によって粘膜の微細な変化まで観察できる大学病院レベルの検査が可能です。また、鎮静剤を使用した無痛の内視鏡検査を提供しており、患者さんの負担を最小限に抑えることを心がけています。

検査前の準備と注意点

便潜血検査は特別な準備は必要ありませんが、大腸内視鏡検査や大腸CT検査では、検査前の食事制限や下剤による腸管洗浄が必要です。

大腸内視鏡検査の場合、通常は検査前日の夕食は消化の良いものを摂り、検査当日は絶食となります。また、検査前日の夜と当日の朝に下剤を服用して腸内をきれいにします。

大腸CT検査では、大腸内視鏡検査よりも下剤の量が少なく済む場合が多いですが、やはり検査前の食事制限や下剤の服用は必要です。検査前日に消化の良い専用の検査食をとり、少量のバリウムを飲んで残便を白く色付けし、就寝前に少量の下剤を飲むという流れが一般的です。

いずれの検査も、事前に医療機関から詳しい説明と指示があります。不安なことや分からないことがあれば、遠慮なく医療機関に相談しましょう。

大腸がん検診の費用と保険適用

大腸がん検診の費用は、検査方法や受診する医療機関、自治体の助成制度などによって異なります。ここでは、各検査方法の一般的な費用と保険適用の有無について解説します。

便潜血検査の費用

便潜血検査は比較的安価で、自治体の住民検診として受ける場合は、無料から500円程度のところが多いです。横浜市では令和7年度は無料で受けられるようです。職場の健康診断の一環として受ける場合も、多くは無料または低額で受けられます。

医療機関で自費で受ける場合でも、1,000円〜2,000円程度で受けられることが多いです。

大腸内視鏡検査の費用

大腸内視鏡検査の費用は、検診として受ける場合と保険診療として受ける場合で大きく異なります。

検診として自費で受ける場合は、医療機関にもよりますが、2万円〜3万円程度かかることが一般的です。ただし、検査中にポリープや早期がんが見つかって内視鏡で切除した場合には、保険診療に切り替わります。

一方、便潜血検査で陽性となり、精密検査として大腸内視鏡検査を受ける場合や、血便などの症状があって診察を受ける場合は、保険診療となります。この場合、3割負担の方で5,000円〜1万円程度の自己負担となることが多いです。

大腸CT検査の費用

大腸CT検査(CTコロノグラフィー)の費用も、医療機関によって異なりますが、検診として自費で受ける場合は2万円〜4万円程度かかることが多いです。

便潜血検査陽性後の精密検査として受ける場合でも、現時点では大腸CT検査は保険適用外の検査であることが多く、自費負担となる場合がほとんどです。ただし、医療機関によっては保険適用となる場合もありますので、事前に確認するとよいでしょう。

助成制度の活用

大腸がん検診には、様々な助成制度があります。自治体の住民検診では、対象年齢の方は低額または無料で便潜血検査を受けられます。また、年齢によっては無料クーポンが配布される場合もあります。

横浜市の場合、70歳以上の方は無料で大腸がん検診を受けられるようです。また、精密検査費用の助成制度もあるようです。

職場の健康保険組合によっては、人間ドックや各種がん検診の費用補助を行っているところもあります。自分が加入している健康保険組合の制度を確認してみるとよいでしょう。

大腸がん検診で異常が見つかった場合の対応

大腸がん検診で異常が見つかった場合、適切な対応をすることが重要です。ここでは、検査結果ごとの対応方法について解説します。

便潜血検査で陽性となった場合

便潜血検査で「陽性」と判定された場合は、必ず精密検査を受ける必要があります。便潜血検査は、大腸がんの可能性を示唆するスクリーニング検査であり、陽性だからといって必ずしもがんであるとは限りません。しかし、がんの可能性を否定できないため、精密検査が必要なのです。

ここで重要なのは、便潜血検査を再度受けることは精密検査の代わりにはならないということです。大腸がんは毎日出血しているわけではありませんので、1日分でも便潜血検査陽性となったら精密検査を受ける必要があります。

また、もともと痔がある場合でも、痔が原因で出血しているのか、あるいは大腸がんやポリープのために出血しているのかは精密検査をしないと分かりません。自己判断をせずに、必ず精密検査を受けましょう。

大腸内視鏡検査でポリープが見つかった場合

大腸内視鏡検査でポリープが見つかった場合、その大きさや形状、場所などによって対応が異なります。

小さなポリープ(5mm以下)で数が少ない場合は、その場で切除することもありますし、経過観察となることもあります。一方、大きなポリープや数が多い場合は、別日に改めてポリープ切除の処置を行うことがあります。

ポリープを切除した場合は、その組織を病理検査に提出し、がん細胞が含まれているかどうかを調べます。結果によって、その後の治療方針が決まります。

当院では、日帰りでの大腸ポリープ切除にも対応しています。患者さんの負担を最小限に抑えながら、適切な治療を提供できるよう努めています。

大腸がんと診断された場合

大腸内視鏡検査や組織検査の結果、大腸がんと診断された場合は、がんの進行度(ステージ)を確認するための追加検査が必要になります。CT検査やMRI検査などを行い、がんの大きさや深さ、リンパ節転移や他臓器への転移の有無などを調べます。

これらの検査結果をもとに、手術、内視鏡治療、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療などの中から最適な治療方法を選択します。治療方針は、がんの進行度だけでなく、患者さんの年齢や全身状態、希望なども考慮して決定します。

大腸がんと診断されても、早期であれば内視鏡治療だけで完治する可能性も高いです。早期発見・早期治療が何よりも重要なのです。

まとめ:大腸がん検診で早期発見を目指そう

大腸がんは日本人がかかるがんの中で最も罹患数が多く、女性のがん死亡原因の第1位、男性では第2位となっています。しかし、早期に発見できれば完治も十分可能ながんです。

大腸がんの怖さは、進行するまでほとんど自覚症状がないことです。そのため、定期的な検診が非常に重要となります。40歳以上の方は、年に1回の大腸がん検診を受けることが推奨されています。

大腸がん検診には、便潜血検査、大腸内視鏡検査、大腸CT検査などの方法があります。それぞれに特徴があり、自分の状況や希望に合わせて最適な検査方法を選ぶことが大切です。

便潜血検査は簡便で負担が少なく、スクリーニング検査として適しています。陽性となった場合は、必ず精密検査を受けることが重要です。

大腸内視鏡検査は精度が高く、ポリープの切除も同時に行えますが、検査前の準備や検査時の負担が大きいという短所もあります。当院では、鎮静剤を使用した無痛の大腸内視鏡検査を提供し、患者さんの負担軽減に努めています。

大腸CT検査は、大腸内視鏡検査に比べて負担が少なく、短時間で検査が完了するという利点がありますが、組織の採取ができないという限界もあります。

いずれの検査方法を選ぶにしても、定期的に検診を受けることが何よりも重要です。「辛い・苦しい」というイメージから検診を避けるのではなく、早期発見・早期治療のために、ぜひ定期的な検診を心がけてください。

当院では、患者さんの負担を最小限に抑えながら、高精度の検査を提供できるよう様々な工夫を行っています。大腸がん検診についてご不明な点やご不安な点がありましたら、お気軽に当院までご相談ください。皆様の健康を守るために、誠心誠意サポートさせていただきます。

詳細は石川消化器内科・内視鏡クリニックのホームページをご覧いただくか、お電話でお問い合わせください。

 

 

 

 

 

 

 

 

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.01

慢性便秘を根本から改善!消化器内科での検査と治療法を紹介

慢性便秘とは?症状と定義を正しく理解する

便秘は多くの方が一度は経験したことのある症状です。しかし、「何日間排便がないと便秘なのか」という明確な基準はありません。

慢性便秘症は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態が長期間続くこと」と定義されています。単に排便回数が少ないだけでなく、排便時の苦痛や残便感なども重要な症状です。

便秘の三大症状は「排便回数の減少」「排便困難感」「残便感」です。これらの症状が1ヶ月以上続く場合は、慢性便秘症を疑う必要があります。

国民生活基礎調査によると、便秘に悩む方の割合は男性2.5%、女性4.6%とされています。20~60歳では女性に多く、60歳以降は男女とも加齢に伴って増加する傾向があります。

便秘は「たかが便秘」と軽視されがちですが、重症化すれば腸閉塞や腸穿孔といった深刻な合併症を引き起こすこともあります。また、大腸がんや心疾患、脳卒中との関連も指摘されており、適切な治療が重要です。

便秘の種類と原因を知り、自分のタイプを見極める

便秘には大きく分けて4つのタイプがあります。自分がどのタイプに当てはまるかを知ることで、適切な治療法を選択できます。

便秘の種類は大きく「機能性便秘」「器質性便秘」「薬剤性便秘」「その他の原因による便秘」に分類されます。それぞれの特徴と原因を詳しく見ていきましょう。

機能性便秘の特徴と原因

最も多いのが「機能性便秘」です。これは大腸や直腸の働きに異常が生じるタイプの便秘で、さらに3つのサブタイプに分けられます。

弛緩性便秘は、大腸を動かす筋肉がゆるみ、腸の蠕動運動が弱くなることで便が停滞するタイプです。生活習慣の乱れや加齢が主な原因とされています。

痙攣性便秘は、大腸の蠕動運動が不規則になることで起こります。ストレスが大きく関与していると考えられています。

直腸性便秘は、便意を習慣的に我慢することで直腸の神経の働きが弱くなり、便意を感じにくくなるタイプです。女性や温水洗浄便座の水を肛門の奥まで入れてしまう方に多く見られます。

器質性便秘と薬剤性便秘

器質性便秘は、大腸がんや手術後の癒着、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患によって、大腸内の便の通過が物理的に妨げられることで起こります。

薬剤性便秘は、服用している薬の副作用によって起こる便秘です。喘息や頻尿、パーキンソン病の治療薬、抗うつ薬、抗コリン薬、咳止めなどには腸の動きを鈍くする副作用があります。

女性に便秘が多い理由

女性に便秘が多い理由は主に3つあります。

1つ目は筋力の低下です。男性に比べて排便に必要な括約筋や腹筋の力が弱いため、特に女性は骨盤が広く腸が下方に垂れ下がりやすいという解剖学的特徴があります。

2つ目はダイエットの影響です。食事量が少なくなると、腸の蠕動運動が低下します。

3つ目はホルモンの影響です。黄体ホルモン(プロゲステロン)は腸の蠕動運動を抑制し、水分・塩分の吸収を促進するため、月経前や妊娠中に便秘になりやすくなります。

便秘が引き起こす健康リスクと合併症

便秘は単なる不快な症状ではなく、放置すると様々な健康リスクを引き起こす可能性があります。

慢性的な便秘は腸内環境の悪化を招き、腸内細菌のバランスが崩れることで様々な健康問題につながります。便秘が長期間続くと、どのような合併症のリスクが高まるのでしょうか。

便秘が重症化すると、腸閉塞や腸穿孔といった命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。また、排便時に強くいきむことで痔や裂肛、直腸脱などの肛門疾患のリスクも高まります。

さらに、便秘の方は大腸がんのリスクが高まることが研究で明らかになっています。全国を対象とした大規模コホート研究(JACC Study)によると、女性の場合、6日以上の便秘では、2~3日おきに排便がある方と比べて、大腸がんのリスクが2.5倍高くなるという結果が報告されています。

便秘は心疾患や脳卒中との関連も指摘されており、予後にも影響を及ぼすことがわかっています。快便の方が長生きするという研究結果もあります。

これらの研究結果からも、便秘は単なる不快な症状ではなく、全身の健康に影響を与える重要な問題であることがわかります。適切な治療を行い、健康的な腸内環境を維持することが大切です。

消化器内科での便秘の検査方法

 

便秘の原因を特定するためには、適切な検査が必要です。消化器内科では、どのような検査を行うのでしょうか。

便秘の検査は、まず問診から始まります。排便の頻度や便の性状、排便時の症状、生活習慣、服用中の薬剤などを詳しく聞き取ります。その上で、必要に応じて以下の検査を行います。

大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

便秘を引き起こす最も重要な疾患の一つが大腸がんです。大腸カメラを一度も受けたことがない方には、まず大腸カメラ検査をお勧めしています。

当院では鎮静剤を使用した無痛の大腸カメラ検査を行っています。眠っている間に検査を行うため、痛みや不快感をほとんど感じることなく検査を受けることができます。

大腸カメラでは、大腸がんやポリープだけでなく、炎症性腸疾患や虚血性大腸炎などの便秘の原因となる疾患を直接観察することができます。必要に応じて組織を採取し、詳しい検査を行うこともあります。

腹部レントゲン検査

腹部レントゲンでは、大腸のどこに便が貯まっているかを確認することができます。便秘のタイプによって治療方針が異なるため、便の貯留部位を知ることは重要です。

例えば、S状結腸や直腸に便が多く貯まっている場合は直腸性便秘の可能性が高く、上行結腸から下行結腸にかけて便が広く分布している場合は弛緩性便秘の可能性が考えられます。

排便造影検査と直腸肛門内圧検査

排便時の問題を詳しく調べるために、排便造影検査や直腸肛門内圧検査を行うこともあります。

排便造影検査では、バリウムを直腸に注入し、排便時のX線撮影を行います。これにより、直腸瘤や直腸脱、骨盤底筋協調運動障害などの診断が可能です。

直腸肛門内圧検査では、肛門括約筋の圧力や直腸感覚閾値を測定します。これにより、排便障害のメカニズムを詳しく調べることができます。

これらの検査結果に基づいて、便秘のタイプを正確に診断し、最適な治療法を選択します。

便秘の内科的治療法と最新薬物療法

便秘の治療は、症状の程度や原因によって異なります。ここでは、消化器内科で行われる便秘の内科的治療法について解説します。

便秘治療の目的は、単に排便回数を増やすだけでなく、排便時の苦痛や残便感を改善し、患者さんのQOL(生活の質)を向上させることです。

生活習慣の改善と食事療法

便秘治療の基本は生活習慣の改善です。適度な運動やお腹のマッサージが便秘改善に効果的であることが報告されています。

食物繊維の推奨摂取量は1日20g以上ですが、現代の日本人の平均摂取量は15g程度と不足しています。食物繊維は便のかさを増やし排便を促進しますが、摂りすぎるとかえって便秘を悪化させることもあるため注意が必要です。

水分摂取も重要です。1日に1.5〜2リットルの水分を摂ることで、便を柔らかく保ち排便を促進します。

また、朝食を摂ることで胃結腸反射を促し、大腸の蠕動運動を活発にすることができます。朝食後にトイレに行く習慣をつけることも効果的です。

便秘治療薬の種類と特徴

生活習慣の改善だけでは効果が不十分な場合は、薬物療法を行います。便秘治療薬には大きく分けて以下の種類があります。

浸透圧性下剤は、腸管内に水分を引き込むことで便を軟らかくし、排便を促進します。代表的なものに酸化マグネシウムがあります。日本で古くから使用されており、大腸通過時間を短縮し、便回数や便形状を改善する効果が研究で確認されています。

刺激性下剤は、腸の蠕動運動を直接刺激します。センナやピコスルファートナトリウムなどがありますが、長期使用すると耐性が生じる可能性があります。

近年では新しいタイプの便秘治療薬も登場しています。粘膜上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)は腸管内の水分分泌を促進し、胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)は胆汁酸の再吸収を阻害することで大腸の蠕動運動を促進します。

これらの新薬は従来の下剤とは異なるメカニズムで作用するため、従来の治療で効果が不十分だった方にも効果が期待できます。

難治性便秘への対応

一般的な治療で改善しない難治性便秘の場合は、より専門的な治療が必要になります。

バイオフィードバック療法は、直腸肛門協調運動障害による便秘に効果的です。排便時の筋肉の使い方を視覚的に確認しながら、正しい排便法を学びます。

また、浣腸や坐薬、摘便などの対症療法も状況に応じて行います。重症例では逆行性洗腸法を行うこともあります。

薬物療法では、複数の薬剤を組み合わせることで効果を高めることもあります。例えば、浸透圧性下剤と刺激性下剤の併用や、新薬と従来薬の併用などです。

どのような治療法を選択するかは、便秘のタイプや重症度、患者さんの状態によって異なります。消化器内科専門医による適切な診断と治療が重要です。

便秘と大腸がんの関係性

便秘と大腸がんの関係については、多くの研究が行われています。便秘が大腸がんのリスク因子となる可能性があることがわかってきました。

便秘が続くと、腸内に便が長時間滞留することになります。この状態が続くと、便に含まれる発がん物質と腸粘膜の接触時間が長くなり、大腸がんのリスクが高まる可能性があります。

1988年から20年以上かけて行われた全国規模の大規模コホート研究(JACC Study)では、排便頻度と大腸がんの関連が調査されました。その結果、女性の場合、6日以上便秘が続く方は、2〜3日おきに排便がある方と比べて、大腸がんのリスクが2.5倍高くなることが明らかになりました。

便秘と大腸がんの関連については、まだ研究段階の部分もありますが、長期間の便秘は大腸がんのリスク因子となる可能性が高いと考えられています。

特に、便秘に加えて、血便や体重減少、貧血などの症状がある場合は、大腸がんの可能性を考慮して早急に消化器内科を受診することをお勧めします。

当院では、便秘の症状がある方に対して、必要に応じて大腸カメラ検査を行い、大腸がんやポリープの早期発見・早期治療に努めています。鎮静剤を使用した無痛の大腸カメラ検査を行っていますので、検査への不安や恐怖感を最小限に抑えることができます。

便秘外来を受診するタイミングと準備

便秘の症状があるとき、どのようなタイミングで医療機関を受診すべきでしょうか。また、受診の際にはどのような準備をしておくと良いでしょうか。

便秘は1週間程度であれば様子を見ても良いとされていますが、以下のような場合は消化器内科の受診をお勧めします。

・便が出ない、あるいは便が出てもすっきりしない状態が1ヶ月以上続く場合

・市販の便秘薬を使っても効果がない、または効果が徐々に弱くなってきた場合

・便秘に加えて、血便、腹痛、発熱、体重減少などの症状がある場合

・50歳以上で便通の変化がある場合(大腸がんのリスクが高まるため)

・便秘が急に始まり、以前とは排便パターンが明らかに変わった場合

受診前の準備と問診のポイント

便秘外来を受診する際は、以下の情報を整理しておくと診察がスムーズに進みます。

・便秘の期間(いつから続いているか)

・排便の頻度と便の性状(ブリストル便形状スケールを参考に)

・排便時の症状(いきみ、痛み、残便感など)

・現在服用中の薬(便秘を引き起こす可能性のある薬もあります)

・これまでに試した便秘対策とその効果

・食事内容や水分摂取量、運動習慣などの生活習慣

・家族歴(特に大腸がんや炎症性腸疾患など)

これらの情報を事前にメモしておくと、医師に正確に伝えることができます。

当院での便秘治療の特徴

当院では、消化器・内視鏡専門医である院長が全ての診察、検査、検査結果説明を担当しています。便秘の症状一つひとつに丁寧に向き合い、患者さん一人ひとりに最適な治療法を提案しています。

便秘の検査では、必要に応じて大腸カメラ検査を行います。当院では鎮静剤(麻酔)を使用した無痛の大腸カメラ検査を提供しており、半分眠ったような状態で検査を受けることができます。「辛い・苦しい」というイメージがある大腸カメラ検査のハードルを下げ、患者さんの負担を軽減しています。

また、高性能な拡大内視鏡を導入しており、特殊な光によって粘膜の微細な変化まで観察できる大学病院レベルの検査が可能です。初診当日の検査や土曜日の検査にも対応しており、お忙しい方でも安心して検査を受けていただけます。

便秘治療では、生活習慣の改善から薬物療法まで、便秘のタイプや重症度に応じた最適な治療を提供しています。新しい便秘治療薬も積極的に取り入れ、従来の治療で効果が不十分だった方にも効果的な治療を提案しています。

まとめ:便秘治療で生活の質を向上させよう

慢性便秘症は「たかが便秘」と軽視されがちですが、適切な治療を行わないと様々な健康リスクを引き起こす可能性があります。

便秘の種類は大きく「機能性便秘」「器質性便秘」「薬剤性便秘」に分類され、それぞれ原因と治療法が異なります。自分の便秘のタイプを知ることが、効果的な治療の第一歩です。

便秘の治療は、生活習慣の改善から始まります。適度な運動、十分な水分摂取、食物繊維の適切な摂取などが基本です。それでも改善しない場合は、浸透圧性下剤や刺激性下剤、新しいタイプの便秘治療薬などの薬物療法を行います。

便秘が1ヶ月以上続く場合や、市販薬で効果がない場合、血便や腹痛などの症状を伴う場合は、消化器内科の受診をお勧めします。特に50歳以上の方は、大腸がんのリスクも考慮して、一度大腸カメラ検査を受けることが重要です。

当院では、消化器・内視鏡専門医による丁寧な診察と、鎮静剤を使用した無痛の大腸カメラ検査を提供しています。便秘でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

便秘を根本から改善することで、腸内環境が整い、全身の健康状態も向上します。快適な排便習慣を取り戻し、生活の質を高めましょう。

詳しい情報や診療予約については、石川消化器内科・内視鏡クリニックのホームページをご覧いただくか、お電話でお問い合わせください。皆様の健康管理を誠心誠意サポートいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.01

内視鏡検査の保険適用条件と自己負担額ガイド〜2025年最新情報

内視鏡検査とは?保険適用の基本的な考え方

内視鏡検査は、食道・胃・十二指腸や大腸などの消化管を直接カメラで観察する検査です。胃カメラや大腸カメラとも呼ばれ、消化器疾患の診断において非常に重要な役割を果たしています。

「内視鏡検査は保険が適用されるの?」「自己負担額はどのくらい?」という疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

内視鏡検査の保険適用には、症状や検査目的によって大きく異なる条件があります。健康診断などの予防目的と、症状がある場合の診療目的では、適用される保険制度や自己負担額が変わってくるのです。

当院でも多くの患者さんから保険適用に関するご質問をいただきます。この記事では、2025年最新の内視鏡検査における保険適用条件と自己負担額について、医師の立場から詳しく解説していきます。

保険診療と自費診療の違い〜内視鏡検査の場合

内視鏡検査を受ける際、保険診療と自費診療の2つの選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがありますので、まずはその違いを理解しましょう。

保険診療とは、健康保険が適用される診療のことです。何らかの症状があり、医師が必要と判断した場合に適用されます。一方、自費診療は健康保険が適用されず、検査費用の全額を自己負担する診療形態です。

「なぜ自費診療を選ぶ人がいるの?」と思われるかもしれません。

実は、症状がなく単に健康確認のために受ける人間ドックや健康診断の一環としての内視鏡検査は、原則として保険適用外となるのです。また、保険診療では制約がある一方、自費診療ではより自由度の高い検査が可能な場合もあります。

私の臨床経験から言えば、多くの患者さんは保険診療を希望されますが、定期的な健康管理として自費での検査を選ぶ方も少なくありません。

以下の表で、保険診療と自費診療の主な違いをまとめてみました。

  • 保険診療:何らかの症状がある場合や、医師が必要と判断した場合に適用
  • 自費診療:症状がなく健康確認目的の場合や、保険適用外の検査方法を希望する場合
  • 費用負担:保険診療は3割負担(年齢により1〜2割の場合も)、自費診療は全額自己負担
  • 検査内容:保険診療は保険で認められた範囲内、自費診療はより自由度が高い場合も

どちらを選ぶべきかは、ご自身の健康状態や目的によって異なります。症状がある場合は、まずは保険診療での受診をお勧めします。

内視鏡検査が保険適用される条件【2025年最新】

2025年現在、内視鏡検査が保険適用される条件は明確に定められています。主な条件をご紹介します。

まず、保険適用の大前提として「医学的必要性」があることが重要です。具体的には以下のような場合に保険適用となります。

症状がある場合

腹痛、胸やけ、嘔吐、下血、便通異常など消化器系の症状がある場合は、医師の判断により内視鏡検査が保険適用となります。当院でも、こうした症状を訴える患者さんには積極的に内視鏡検査をお勧めしています。

「症状が軽いから我慢しよう」と思われる方もいますが、早期発見・早期治療のためにも、気になる症状があればためらわずに受診されることをお勧めします。

検査結果で異常が見つかった場合

健康診断や他の検査で異常が見つかり、精密検査として内視鏡検査が必要と判断された場合も保険適用となります。例えば、胃部X線検査(バリウム検査)で異常陰影が見つかった場合や、便潜血検査で陽性となった場合などが該当します。

健康診断の結果をお持ちの方は、受診時に必ずご提示ください。医師の判断材料として重要です。

経過観察が必要な場合

過去に消化器疾患の治療歴がある方や、ポリープなどを指摘されている方の経過観察目的の内視鏡検査も、医師が必要と判断すれば保険適用となります。

当院では、患者さん一人ひとりの状態に合わせた適切な検査間隔をご提案しています。定期的な経過観察は、病変の早期発見につながります。

年齢による条件

2025年度の各自治体のがん検診では、胃内視鏡検査は主に50歳以上を対象としています。例えば、戸田市では50歳以上の市民で、前年度に市の胃内視鏡検査を受けていない方が対象となっています。また、検診は2年に1回の頻度で受けることができます。

自治体によって対象年齢や条件が異なりますので、お住まいの地域の最新情報をご確認ください。

内視鏡検査の自己負担額はいくら?

内視鏡検査の自己負担額は、保険適用か自費診療か、また検査の種類によって大きく異なります。2025年現在の一般的な費用をご紹介します。

保険診療の場合の自己負担額

保険診療の場合、自己負担割合は年齢や所得によって1割から3割と異なります。一般的な3割負担の方の場合、おおよその自己負担額は以下の通りです。

  • 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):3,000円〜5,000円程度
  • 下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ):5,000円〜8,000円程度

ただし、これはあくまで検査基本料の目安です。生検(組織採取)や処置を行った場合は、別途費用が発生します。また、鎮静剤(麻酔)を使用する場合も追加費用がかかることがあります。

当院では、患者さんの不安や苦痛を軽減するため、鎮静剤を使用した無痛内視鏡検査を提供しています。半分眠ったような状態で検査を受けることができるため、「辛い・苦しい」というイメージのある内視鏡検査のハードルを下げることができます。

保険診療の場合、高額療養費制度も適用されます。同月内の医療費が一定額を超えた場合、超過分が後日払い戻されるシステムです。

自費診療の場合の費用

自費診療の場合は、医療機関によって料金設定が大きく異なります。一般的な相場は以下の通りです。

  • 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):10,000円〜20,000円程度
  • 下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ):20,000円〜40,000円程度

自費診療では、鎮静剤の使用や、より詳細な検査、当日の検査結果説明なども含まれていることが多いです。

費用面で不安がある場合は、事前に医療機関に確認することをお勧めします。当院では、検査前に費用の目安をご説明し、患者さんが安心して検査を受けられるよう配慮しています。

自治体のがん検診における内視鏡検査

各自治体では、がん検診の一環として内視鏡検査を実施しています。2025年度の最新情報をご紹介します。

自治体のがん検診は、一般的な保険診療よりも自己負担額が少なく設定されているのが特徴です。積極的に活用したい制度と言えるでしょう。

胃がん検診(内視鏡検査)

2025年度の各自治体の胃がん内視鏡検診の情報を見ていきましょう。

八王子市では、50歳以上の方を対象に、2年に1回の頻度で胃がん内視鏡検診を実施しています。自己負担額は3,080円です。西宮市の場合は、50歳以上の偶数年齢の方が対象で、個別検診の費用は3,800円となっています。

戸田市では、50歳以上の市民で前年度に市の胃内視鏡検査を受けていない方を対象に、自己負担金2,500円で検査を提供しています。定員は1,000人で、申し込みが必要です。

このように、自治体によって対象年齢や自己負担額、申込方法などが異なります。お住まいの地域の広報やホームページで最新情報をご確認ください。

大腸がん検診

大腸がん検診は、多くの自治体で40歳以上の方を対象に実施されています。ただし、一次検診は便潜血検査が一般的で、その結果で陽性となった場合に大腸内視鏡検査(精密検査)が推奨されます。

八王子市では大腸がん検診の自己負担額は880円、西宮市では600円(集団検診の場合)となっています。福岡市や戸田市でも同様に40歳以上の方を対象に大腸がん検診を実施しています。

便潜血検査で陽性となった場合は、必ず精密検査を受けることをお勧めします。早期発見・早期治療が大腸がんの予後を大きく左右します。

内視鏡検査の保険適用に関するよくある質問

内視鏡検査の保険適用について、患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。

症状がなくても保険は適用される?

基本的に、症状がない場合は保険適用外となります。ただし、過去の検査で異常が見つかり経過観察が必要な場合や、家族歴などのリスク要因がある場合は、医師の判断により保険適用となることがあります。

症状がなくても定期的な検査を希望される場合は、自治体のがん検診や人間ドックの活用をご検討ください。

前立腺がん検査も同時に受けられる?

内視鏡検査と前立腺がん検査は別の検査ですが、同日に受けることは可能な場合があります。戸田市では、50歳以上の男性市民を対象に、前立腺がん検査(PSA検査)を実施しています。自己負担金は2,000円です。

ただし、前立腺がん検査は血液検査であり、内視鏡検査とは検査方法が異なります。医療機関や自治体の検診プログラムによって、同時実施の可否や費用が変わりますので、事前に確認することをお勧めします。

高額療養費制度は使える?

保険診療で内視鏡検査を受けた場合、高額療養費制度の対象となります。同月内の医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、超過分が後日払い戻されます。

高額療養費制度の自己負担限度額は、年齢や所得によって異なります。事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、窓口での支払いが自己負担限度額までで済みますので、ご検討ください。

市民税非課税世帯は検診費用が免除される?

多くの自治体では、市民税非課税世帯や生活保護受給世帯の方は、がん検診の費用が免除される制度があります。例えば、八王子市や福岡市では、市県民税非課税世帯の人、生活保護受給世帯の人は、市の実施するがん検診が無料となります(証明書が必要)。

費用免除を受けるためには、予約前に市への申請が必要な場合もありますので、お住まいの自治体にお問い合わせください。

内視鏡検査を安心して受けるためのポイント

最後に、内視鏡検査を安心して受けるためのポイントをご紹介します。

内視鏡検査は「辛い・苦しい」というイメージがあるかもしれませんが、技術の進歩により、以前よりもずっと受けやすくなっています。当院では、患者さんの不安や苦痛を軽減するためのさまざまな工夫を行っています。

鎮静剤(麻酔)の活用

鎮静剤を使用することで、半分眠ったような状態で検査を受けることができます。痛みや恐怖をほとんど感じることなく、「あっという間」に検査が終わります。

当院では、患者さんの状態や希望に合わせて適切な鎮静を行い、できるだけ苦痛の少ない検査を心がけています。

経鼻内視鏡の選択肢

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)は、口からだけでなく鼻から挿入する方法(経鼻内視鏡)も選択できます。経鼻内視鏡は、嘔吐反射が少なく、会話もできるため、口からの挿入に抵抗がある方に適しています。

当院では、経口・経鼻どちらの内視鏡検査も対応可能です。患者さんのご希望に応じて最適な方法をご提案しています。

検査前の適切な準備

検査の種類によって、事前の準備が異なります。上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)の場合は検査前の絶食、下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)の場合は腸管洗浄が必要です。

医師や看護師の指示に従って適切な準備を行うことで、より正確で安全な検査が可能になります。不明点があれば、遠慮なくお尋ねください。

専門医による検査

内視鏡検査は、専門的な知識と技術を持った医師が行うことが重要です。日本消化器内視鏡学会の専門医資格を持つ医師による検査は、より安全で正確な診断につながります。

当院では、消化器・内視鏡専門医である院長が全ての診察、検査、検査結果説明を担当しています。安心して検査をお受けください。

まとめ:内視鏡検査の保険適用と自己負担額

内視鏡検査の保険適用条件と自己負担額について、2025年最新情報をご紹介しました。

内視鏡検査は、症状がある場合や医師が必要と判断した場合に保険適用となります。自己負担額は保険診療の場合、上部消化管内視鏡検査で3,000円〜5,000円程度、下部消化管内視鏡検査で5,000円〜8,000円程度が一般的です。

自治体のがん検診も積極的に活用したい制度です。胃がん内視鏡検診は主に50歳以上の方を対象に、2年に1回の頻度で実施されています。自己負担額は自治体によって異なりますが、一般的な保険診療よりも安く設定されています。

内視鏡検査は「辛い・苦しい」というイメージがありますが、鎮静剤の使用や経鼻内視鏡の選択など、患者さんの負担を軽減するための工夫が進んでいます。

消化器症状がある場合や、健康診断で異常を指摘された場合は、早めに専門医を受診することをお勧めします。早期発見・早期治療が、消化器疾患の予後を大きく左右します。

当院では、患者さん一人ひとりの状態に合わせた適切な検査と治療を提供しています。内視鏡検査についてご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。

詳細は石川消化器内科・内視鏡クリニックのホームページをご覧いただくか、お電話でお問い合わせください。皆様の健康管理を誠心誠意サポートいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.01

【医師監修】胸焼け・ムカムカが続く時に知っておくべき7つの対処法

胸焼け・ムカムカの原因とは?なぜ不快な症状が起こるのか

胸焼けやムカムカといった不快な症状は、多くの方が一度は経験したことがあるのではないでしょうか。特に食後に感じることが多い、みぞおちから胸にかけての焼けるような感覚や、胃がむかむかする感じは日常生活に大きな支障をきたします。

これらの症状が起こる主な原因は、胃酸の過剰分泌と食道への逆流です。通常、食道と胃の境目にある下部食道括約筋が胃酸の逆流を防いでいますが、この機能が低下すると胃酸が食道に逆流し、胸やけを引き起こします。

胸やけとムカムカの症状は似ていますが、少し異なります。胸やけは主に胃酸が食道に逆流することで起こる、みぞおちの上部がヒリヒリ・ジリジリと焼けるような感覚です。一方、ムカムカは胃の内容物が長時間とどまることで起こる、胃が重く苦しい感覚を指します。

これらの症状を引き起こす要因には、以下のようなものがあります。

  • 食生活の乱れ:脂っこい食事、食べ過ぎ、飲み過ぎ
  • 生活習慣:食後すぐの横になる習慣、喫煙、不規則な食事
  • ストレス:精神的なストレスによる自律神経の乱れ
  • 加齢:下部食道括約筋の筋力低下
  • 肥満:腹圧の上昇による胃内容物の逆流

特に食べ過ぎると胃の中の圧力が高まり、下部食道括約筋が緩んで胃酸が逆流しやすくなります。また、高脂肪食は胃の排出機能を低下させ、胃もたれを引き起こす原因となります。

胸焼け・ムカムカの7つの症状と見分け方

胸焼けやムカムカの症状は人によって感じ方が異なります。自分の症状を正確に把握することで、適切な対処法を見つけることができます。

主な症状には次のようなものがあります。それぞれの特徴を知り、自分の状態を確認してみましょう。

1. 胸やけ(胸が焼けるような感覚)

みぞおちの上部から胸にかけて、ヒリヒリ・ジリジリとした焼けるような感覚があります。食後に特に強く感じることが多く、横になると症状が悪化する傾向があります。

これは胃酸が食道に逆流し、食道の粘膜を刺激することで起こります。食道は胃と違って胃酸から身を守る粘液層が薄いため、胃酸に触れると強い刺激を感じるのです。

2. 胃もたれ(胃が重い感覚)

胃が重く、食べ物が長時間胃に残っているような不快感があります。食後に特に感じやすく、消化不良の状態を示しています。

胃の排出機能が低下していると、食べ物が胃に長くとどまり、この症状が現れます。脂っこい食事や食べ過ぎが主な原因です。

3. 吐き気・嘔吐感

胃の内容物を吐き出したいという不快な感覚や、実際に嘔吐することがあります。ウイルス性胃腸炎などの感染症が原因の場合もありますが、胃酸の過剰分泌や胃の炎症によっても起こります。

ストレスや自律神経の乱れも吐き気の原因となることがあります。

4. 呑酸(酸っぱいものが込み上げる感覚)

胃から酸っぱい液体が食道を通って喉まで上がってくる感覚です。口の中が酸っぱくなることもあります。

これは胃酸が食道を通って上がってくる典型的な症状で、逆流性食道炎の特徴的な症状の一つです。

5. 胸の痛み・圧迫感

胸に痛みや圧迫感を感じることがあります。時に心臓の痛みと間違えられることもありますが、食事との関連性がある場合は消化器系の問題である可能性が高いです。

ただし、胸痛が激しい場合や、左腕や顎に放散する痛みがある場合は、心臓の問題の可能性もあるため、すぐに医療機関を受診してください。

6. のどの違和感・イガイガ感

喉に何かが詰まっているような感覚や、イガイガした違和感を感じることがあります。これも胃酸の逆流によって喉の粘膜が刺激されることで起こります。

朝起きたときに特に感じることが多く、夜間に寝ている間に胃酸が逆流した可能性を示しています。

7. 食欲不振

胃の不快感から食べる意欲が減退し、食欲が低下することがあります。長期間続くと栄養不足や体重減少につながる可能性もあります。

これらの症状が一時的なものであれば心配ありませんが、2週間以上続く場合や、日常生活に支障をきたす場合は、医療機関での検査をお勧めします。

胸焼け・ムカムカを改善する7つの対処法

胸焼けやムカムカの症状に悩まされている方に、効果的な7つの対処法をご紹介します。これらの方法を日常生活に取り入れることで、不快な症状の改善が期待できます。

1. 食生活の見直し

胸焼けやムカムカの最も効果的な対処法は、食生活の見直しです。まずは食べ過ぎを避け、腹八分目を心がけましょう。胃に負担をかける脂っこい食事、辛い食べ物、酸味の強い食品、カフェイン、アルコールなどは控えめにすることが大切です。

また、早食いは空気を一緒に飲み込みやすく、胃に負担をかけます。ゆっくりよく噛んで食べることで、消化を助け、満腹感も得やすくなります。

2. 食後の姿勢と活動

食後すぐに横になると、胃酸が逆流しやすくなります。食後は少なくとも2〜3時間は横にならず、軽い散歩などの適度な活動を行うことで消化を促進させましょう。

どうしても横になる必要がある場合は、上半身を少し高くした姿勢をとることで、胃酸の逆流を防ぐことができます。

食後すぐに激しい運動をするのも避けた方が良いでしょう。食後の激しい運動は胃酸の逆流を促進させる可能性があります。

3. 水分摂取の工夫

適切な水分摂取は胃酸を薄め、症状を和らげる効果があります。ただし、食事中に大量の水を飲むと胃を膨らませ、かえって症状を悪化させることがあります。

食事と水分摂取は分けて行い、少量ずつこまめに水分を取ることをお勧めします。炭酸飲料やアルコール、カフェインを含む飲み物は胃酸の分泌を促進するため、控えめにしましょう。

4. 睡眠姿勢の改善

夜間の胸やけを防ぐには、睡眠時の姿勢が重要です。枕やマットレスを使って上半身を少し高くすることで、胃酸の逆流を防ぐことができます。

また、左側を下にして横になると、胃の出口が上になるため胃酸が逆流しにくくなります。右側を下にすると逆に胃酸が逆流しやすくなるので注意しましょう。

5. ストレス管理

ストレスは胃酸の過剰分泌を促し、胸やけやムカムカの原因となります。深呼吸、瞑想、ヨガなどのリラクゼーション法を取り入れ、ストレスを軽減することが大切です。

十分な睡眠も重要です。睡眠不足は自律神経のバランスを崩し、胃腸の働きに悪影響を与えます。規則正しい生活リズムを心がけましょう。

6. 衣服の選択

きつい衣服やベルトは腹部を圧迫し、胃酸の逆流を促進します。特に食後は、お腹を締め付けない緩やかな衣服を選ぶことで、症状の軽減につながります。

また、就寝時にもきつい衣服は避け、リラックスできる服装を選びましょう。

7. 市販薬の適切な使用

症状が辛い場合は、市販の胃薬の使用も検討しましょう。胃酸を中和する制酸薬、胃酸の分泌を抑えるH2ブロッカーなど、症状に合わせた薬を選ぶことが大切です。

ただし、市販薬で症状が改善しない場合や、症状が長期間続く場合は、医療機関での診察をお勧めします。

これらの対処法を組み合わせることで、胸やけやムカムカの症状を効果的に軽減することができます。ただし、個人差があるため、自分に合った方法を見つけることが大切です。

食事療法:胸焼け・ムカムカを和らげる食べ物と避けるべき食品

胸焼けやムカムカの症状を改善するためには、食事内容の見直しが非常に重要です。症状を和らげる食べ物と、逆に症状を悪化させる食品を知ることで、効果的な食事療法を実践できます。

症状を和らげる食べ物

以下の食品は胃に優しく、症状の緩和に役立ちます。

  • 消化の良い炭水化物:おかゆ、うどん、食パンなど
  • 低脂肪の蛋白質:鶏むね肉、白身魚、豆腐など
  • アルカリ性の野菜:ほうれん草、ブロッコリー、キャベツなど
  • 消化を助ける食品:バナナ、りんご(すりおろし)、ヨーグルトなど
  • 胃粘膜を保護する食品:オートミール、はちみつ、アーモンドなど

これらの食品は消化が良く、胃酸の過剰分泌を抑える効果があります。また、少量ずつ頻繁に食べることで、胃に一度に大きな負担をかけないようにすることも大切です。

避けるべき食品

以下の食品は胃酸の分泌を促進したり、下部食道括約筋を緩めたりするため、症状を悪化させる可能性があります。

  • 高脂肪食:揚げ物、脂身の多い肉、クリーム系の料理など
  • 刺激物:唐辛子、わさび、カレー粉などの香辛料
  • 酸味の強い食品:柑橘類、トマト、酢を使った料理など
  • カフェイン:コーヒー、紅茶、エナジードリンクなど
  • アルコール:特に蒸留酒や赤ワインなど
  • 炭酸飲料:炭酸水、コーラなどの清涼飲料水
  • チョコレート:特にダークチョコレート
  • ミント:ミントティー、ミント菓子など

これらの食品は個人差がありますので、自分の体調と相談しながら調整することが大切です。食事日記をつけて、どのような食品が症状を悪化させるかを把握するのも良い方法です。

食事のタイミングと量

食事の内容だけでなく、食べ方も重要です。以下のポイントに注意しましょう。

  • 一度に大量に食べるのではなく、少量ずつ頻繁に食べる
  • 食事と就寝の間に少なくとも3時間空ける
  • ゆっくりよく噛んで食べる
  • 食事中の水分摂取は控えめにし、食間に水分を取る
  • 規則正しい時間に食事をとる

これらの食事療法を継続することで、胸やけやムカムカの症状が徐々に改善されることが期待できます。ただし、症状が長期間続く場合は、単なる食生活の問題ではなく、何らかの疾患が隠れている可能性もありますので、医療機関での検査をお勧めします。

受診の目安:いつ医師に相談すべきか

胸やけやムカムカの症状は一時的なものであれば心配ありませんが、以下のような場合は医療機関を受診することをお勧めします。

すぐに受診すべき症状

以下の症状がある場合は、緊急性が高いため、すぐに医療機関を受診してください。

  • 胸痛が強く、左腕や顎に放散する:心臓の問題の可能性があります
  • 呼吸困難を伴う:肺や心臓の問題の可能性があります
  • 黒色や赤色の吐血・下血がある:消化管出血の可能性があります
  • 激しい腹痛が続く:急性腹症の可能性があります
  • 嘔吐が止まらず、脱水症状がある:緊急の治療が必要です

早めに受診すべき症状

以下の症状がある場合は、緊急ではありませんが、早めに医療機関を受診することをお勧めします。

  • 症状が2週間以上続く:慢性的な問題がある可能性があります
  • 市販薬で症状が改善しない:より専門的な治療が必要かもしれません
  • 食事が摂れず、体重が減少している:栄養状態の悪化が懸念されます
  • 嚥下困難(食べ物が飲み込みにくい)がある:食道の問題の可能性があります
  • 50歳以上で症状が初めて現れた:加齢に伴う疾患の可能性があります

検査と診断

医療機関では、症状や病歴の聴取、身体診察に加えて、必要に応じて以下のような検査が行われることがあります。

  • 内視鏡検査:食道、胃、十二指腸の粘膜を直接観察します
  • 食道pH測定:食道内の酸度を測定し、胃酸の逆流を評価します
  • バリウム造影検査:食道や胃の形態を評価します
  • 血液検査:炎症マーカーや貧血の有無を調べます
  • ピロリ菌検査:胃炎や胃潰瘍の原因となるピロリ菌の感染を調べます

これらの検査結果に基づいて、適切な治療方針が決定されます。

考えられる疾患

胸やけやムカムカの症状の背景には、以下のような疾患が隠れている可能性があります。

  • 逆流性食道炎(GERD):胃酸が食道に逆流し、食道粘膜に炎症を起こす疾患
  • 機能性ディスペプシア:明らかな器質的異常がなくても胃の不快症状が続く状態
  • 胃炎:胃粘膜の炎症
  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍:胃や十二指腸の粘膜に潰瘍ができる疾患
  • 食道裂孔ヘルニア:胃の一部が横隔膜の食道裂孔を通って胸腔内に入り込む状態

これらの疾患は適切な治療を行うことで、多くの場合症状の改善が期待できます。早期発見・早期治療が重要ですので、気になる症状がある場合は、ぜひ消化器内科の専門医にご相談ください。

薬物療法:医師が処方する薬と市販薬の違い

胸やけやムカムカの症状が強い場合や、生活習慣の改善だけでは症状が良くならない場合は、薬物療法が検討されます。ここでは、医師が処方する薬と市販薬の違いについて解説します。

医師が処方する薬

医療機関で処方される薬は、市販薬よりも強い効果が期待できます。主な種類は以下の通りです。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸の分泌を強力に抑制する薬です。逆流性食道炎の第一選択薬として使用されます。
  • H2受容体拮抗薬:胃酸分泌を抑制する薬で、PPIよりはやや効果が弱いですが、即効性があります。
  • 消化管運動改善薬:胃や食道の動きを改善し、胃内容物の排出を促進する薬です。
  • 制酸薬:胃酸を中和する薬で、即効性があります。
  • 粘膜保護薬:胃や食道の粘膜を保護し、炎症を抑える薬です。

これらの薬は症状や疾患の種類、重症度に応じて、単独または組み合わせて処方されます。医師の指示に従って正しく服用することが大切です。

市販薬の種類と選び方

市販の胃腸薬にもさまざまな種類があり、症状に合わせて選ぶことが重要です。

  • 制酸薬:胃酸を中和する成分を含み、胸やけに効果的です。
  • H2ブロッカー:胃酸の分泌を抑制する成分を含み、持続的な効果が期待できます。
  • 健胃薬:胃の働きを活発にし、消化を促進する薬です。
  • 整腸薬:腸内環境を整える薬で、下痢や便秘の改善に役立ちます。
  • 総合胃腸薬:複数の成分を含み、様々な胃腸症状に対応します。

市販薬を選ぶ際は、自分の症状に合った薬を選ぶことが大切です。不明な点があれば、薬剤師に相談するとよいでしょう。

市販薬使用の注意点

市販薬を使用する際は、以下の点に注意しましょう。

  • 用法・用量を守って正しく服用する
  • 他の薬との飲み合わせに注意する
  • 長期間連用しない(一般的に2週間程度が目安)
  • 症状が改善しない場合は医療機関を受診する
  • 妊娠中や授乳中、持病がある場合は事前に医師や薬剤師に相談する

市販薬はあくまで一時的な対処法です。症状が長引く場合や、繰り返し発生する場合は、根本的な原因を調べるために医療機関を受診することをお勧めします。

胸焼け・ムカムカを予防するための生活習慣改善

胸やけやムカムカの症状を予防するためには、日常生活の中での継続的な取り組みが重要です。以下に、効果的な予防法をご紹介します。

規則正しい食生活

食生活の改善は予防の基本です。以下のポイントを意識しましょう。

  • 一日三食、規則正しく食べる
  • 食べ過ぎを避け、腹八分目を心がける
  • ゆっくりよく噛んで食べる
  • 就寝前3時間は食事を避ける
  • 脂っこい食事や刺激物を控える
  • アルコールやカフェインの摂取を減らす

食事の内容だけでなく、食べ方や食べるタイミングも重要です。特に夜遅い食事は胃酸の逆流を促進するため、避けるようにしましょう。

適度な運動

適度な運動は消化機能を高め、ストレス解消にも役立ちます。ただし、食後すぐの激しい運動は避け、食後1〜2時間経ってから軽い運動を行うのが理想的です。

ウォーキング、水泳、ヨガなどの有酸素運動が特におすすめです。また、腹筋を鍛えることで、腹圧をコントロールし、胃酸の逆流を防ぐ効果も期待できます。

体重管理

肥満は腹圧を上昇させ、胃酸の逆流を促進します。適正体重を維持することで、胸やけやムカムカの症状を予防できる可能性があります。

急激なダイエットは逆に胃に負担をかけるため、バランスの良い食事と適度な運動で、ゆっくりと体重を減らしていくことが大切です。

ストレス管理

ストレスは胃酸の分泌を増加させ、胃腸の動きを乱す原因となります。ストレスを溜め込まないよう、以下のような方法でリラックスする時間を作りましょう。

  • 深呼吸や瞑想
  • 趣味や好きな活動に時間を使う
  • 十分な睡眠をとる
  • 適度な運動でストレス発散
  • 必要に応じてカウンセリングを受ける

睡眠環境の整備

良質な睡眠は胃腸の健康にも影響します。特に胸やけがある方は、以下のような工夫をしてみましょう。

  • 上半身を少し高くして寝る(枕やマットレスの調整)
  • 左側を下にして横になる
  • 就寝前の飲食を避ける
  • 寝る前にリラックスする時間を持つ
  • 規則正しい就寝・起床時間を守る

これらの生活習慣改善を継続的に行うことで、胸やけやムカムカの症状を予防し、快適な毎日を送ることができるでしょう。

症状が気になる方は、ぜひ石川消化器内科・内視鏡クリニックにご相談ください。消化器専門医による適切な診断と治療で、あなたの症状改善をサポートいたします。

石川消化器内科・内視鏡クリニックでは、胃カメラ・大腸カメラ検査を「より気軽に」「よりスピーディーに」、そして安心して受けていただけるよう、さまざまな工夫を行っております。お気軽にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

2025.08.01

消化器内科受診の目安となる症状チェックリスト〜自己診断の方法とは

お腹の調子が悪いとき、「これは病院に行くべきなのか」と迷った経験はありませんか?消化器の不調は日常的に感じることも多く、どの症状が受診の目安になるのか判断が難しいものです。

消化器内科は、食道・胃・腸・肝臓・胆のう・膵臓など、消化に関わる臓器の病気を専門とする診療科です。これらの臓器に問題が生じると、様々な症状が現れます。

私は消化器内科医として長年診療に携わってきましたが、多くの患者さんが「もっと早く受診すればよかった」と話されます。早期発見・早期治療が可能な病気も少なくありません。

消化器内科を受診すべき主な症状

消化器の不調は様々な形で現れます。以下の症状が見られたら、消化器内科の受診を検討しましょう。

特に重要なのは、症状が長く続く場合や、急に強い症状が現れた場合です。自分の体調の変化に敏感になり、異変を感じたら我慢せずに医療機関を受診することをお勧めします。

腹痛・胃痛

腹痛は消化器疾患でもっとも多い症状の一つです。痛みの場所や性質によって、原因となる臓器や疾患が異なります。

みぞおちの痛みは胃や十二指腸の問題を示すことが多く、右上腹部の痛みは肝臓や胆のう、左上腹部の痛みは膵臓や脾臓の問題が考えられます。下腹部の痛みは主に腸の問題を示唆します。

以下のような腹痛がある場合は、消化器内科を受診しましょう。

  • 1週間以上続く腹痛
  • 徐々に強くなる痛み
  • 夜間に痛みで目が覚める
  • 食事と関係なく起こる強い痛み
  • これまで経験したことのないような強い痛み

特に注意が必要なのは、持続的な痛みです。腹部に何らかの炎症が生じている可能性があるため、「いつもの痛みだから」と放置せず、受診することをお勧めします。

吐き気・嘔吐

吐き気や嘔吐は、胃腸の問題だけでなく、肝臓や膵臓の疾患でも起こります。一時的な吐き気は食あたりや胃腸炎などが原因のことが多いですが、長く続く場合は注意が必要です。

特に以下のような場合は、早めに受診しましょう。

  • 24時間以上続く嘔吐
  • 嘔吐物に血液や「コーヒー残渣様」の黒い物質が混じる
  • 激しい腹痛を伴う嘔吐
  • 頭痛や意識障害を伴う嘔吐
  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)を伴う嘔吐

嘔吐に血液が混じっている場合は、食道や胃に出血がある可能性があり、緊急性が高い状態です。すぐに医療機関を受診してください。

便通の異常と消化器疾患

便通の変化は消化器疾患の重要なサインです。下痢や便秘、血便などの症状は、様々な病気を示唆します。

便通の異常は一時的なものであれば心配ありませんが、長期間続く場合や、他の症状を伴う場合は、消化器内科の受診を検討しましょう。

下痢

下痢は、腸の動きが活発になり、便が水っぽくなる状態です。ウイルスや細菌による感染、食中毒、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患などが原因となります。

以下のような下痢の場合は、消化器内科を受診しましょう。

  • 2週間以上続く下痢
  • 血液や粘液が混じる下痢
  • 38度以上の発熱を伴う下痢
  • 激しい腹痛を伴う下痢
  • 体重減少を伴う下痢
  • 夜間に下痢で目が覚める

特に血便を伴う下痢は、炎症性腸疾患や感染性腸炎、大腸がんなどの可能性があるため、早めに受診することが重要です。

便秘

便秘は、排便回数の減少や排便時の困難さを特徴とします。生活習慣の乱れや食事内容、ストレスなどが原因となることが多いですが、腸閉塞や大腸がんなどの重篤な疾患のサインのこともあります。

以下のような便秘の場合は、消化器内科を受診しましょう。

  • 3週間以上続く便秘
  • 急に始まった頑固な便秘
  • 腹痛や腹部膨満感を伴う便秘
  • 血便や黒色便を伴う便秘
  • 体重減少を伴う便秘
  • 便秘と下痢を繰り返す

特に50歳以上で急に便通が変化した場合は、大腸がんの可能性も考えられるため、早めに検査を受けることをお勧めします。

血便・黒色便

便に血液が混じる、または便が黒くなる症状は、消化管のどこかで出血が起きている可能性を示します。鮮血が混じる場合は主に肛門や直腸、S状結腸からの出血、黒色便は上部消化管(食道・胃・十二指腸)からの出血が考えられます。

どう思いますか?血便や黒色便は、痔による出血以外は重大な疾患のサインであることが多いです。

以下のような場合は、すぐに消化器内科を受診しましょう。

  • 繰り返す血便
  • タール状の黒色便
  • めまいや立ちくらみを伴う血便
  • 腹痛を伴う血便
  • 発熱を伴う血便

血便は大腸ポリープや大腸がん、炎症性腸疾患、感染性腸炎などが原因となることがあります。黒色便は胃潰瘍や十二指腸潰瘍、食道静脈瘤などからの出血が考えられます。

胸やけ・呑酸・げっぷと消化器疾患

胸やけや呑酸(胃酸が喉まで上がってくる感覚)、頻繁なげっぷは、上部消化管の問題を示すことが多い症状です。

これらの症状は一時的なものであれば心配ありませんが、頻繁に起こる場合や、他の症状を伴う場合は、消化器内科の受診を検討しましょう。

胸やけ・呑酸

胸やけは胸の奥や喉の付近に感じる灼熱感や不快感、呑酸は胃酸が喉まで上がってくる感覚です。これらの症状は主に逆流性食道炎によって引き起こされます。

以下のような場合は、消化器内科を受診しましょう。

  • 週に2回以上の胸やけや呑酸
  • 3ヶ月以上続く症状
  • 市販薬で改善しない症状
  • 食べ物や飲み物を飲み込みにくい
  • 胸痛を伴う胸やけ
  • 体重減少を伴う症状

胸やけや呑酸が長期間続く場合、食道粘膜が慢性的に傷つき、バレット食道という状態になることがあります。これは食道がんのリスク因子となるため、適切な治療が必要です。

げっぷ・腹部膨満感

頻繁なげっぷや食後の腹部膨満感は、機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)や胃食道逆流症などが原因となることがあります。

以下のような場合は、消化器内科を受診しましょう。

  • 3ヶ月以上続く頻繁なげっぷ
  • 食後の強い腹部膨満感
  • 体重減少を伴うげっぷや膨満感
  • 嚥下困難を伴う症状
  • 胸痛を伴うげっぷ

これらの症状は生活習慣の改善で軽減することもありますが、長期間続く場合は消化器内科での精査が必要です。

黄疸・腹水と消化器疾患

黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)や腹水(お腹に水がたまる)は、肝臓や胆道系の重篤な疾患を示すことが多い症状です。

これらの症状が見られた場合は、すぐに医療機関を受診してください。

黄疸

黄疸は、ビリルビンという物質が体内に蓄積することで、皮膚や白目が黄色くなる状態です。肝炎、肝硬変、胆石、膵臓がん、胆道がんなどが原因となります。

黄疸を自覚した場合は、以下のような随伴症状にも注意しましょう。

  • 皮膚のかゆみ
  • 尿の色が濃くなる
  • 便の色が白っぽくなる
  • 右上腹部の痛み
  • 全身の倦怠感
  • 発熱

黄疸は重篤な肝胆膵疾患のサインであることが多いため、発見したらすぐに消化器内科を受診してください。

腹水

腹水は、腹腔内に液体がたまる状態です。肝硬変、肝がん、膵臓がん、卵巣がんなどが原因となります。

腹水を疑う症状には以下のようなものがあります。

  • お腹の膨満感
  • 体重の急激な増加
  • 足のむくみ
  • 呼吸困難
  • へそが出てくる

腹水は進行した肝疾患や悪性腫瘍に伴うことが多いため、これらの症状が見られたら早急に消化器内科を受診してください。

消化器内科での検査と診断

消化器内科を受診すると、症状や疑われる疾患に応じて、様々な検査が行われます。ここでは、主な検査について説明します。

検査の内容や準備については、事前に医師や看護師から説明がありますので、不安なことがあれば遠慮なく質問してください。

血液検査

血液検査では、肝機能、膵機能、炎症反応、貧血の有無などを調べます。肝臓の状態を示すAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、膵臓の状態を示すアミラーゼ、リパーゼ、炎症の指標となるCRPなどが主な検査項目です。

また、ピロリ菌感染の有無を調べる抗体検査や、B型・C型肝炎ウイルスの検査も行われることがあります。

血液検査は比較的簡単で、短時間で結果が得られる検査です。多くの消化器疾患の診断の第一歩となります。

内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)

内視鏡検査は、口や肛門から細い管状の機器(内視鏡)を挿入し、消化管の内部を直接観察する検査です。

胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)では、食道・胃・十二指腸を観察します。逆流性食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、食道がん、胃がんなどの診断に役立ちます。

大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)では、大腸全体を観察します。大腸ポリープ、大腸がん、炎症性腸疾患、虚血性大腸炎などの診断に役立ちます。

内視鏡検査では、必要に応じて組織を採取(生検)して、詳しく調べることもできます。

当院では、鎮静剤(麻酔)を使用した無痛の内視鏡検査を提供しており、半分眠ったような状態で楽に検査を受けていただけます。経鼻内視鏡にも対応しており、患者さんの希望に合わせて経口・経鼻の選択が可能です。

超音波検査(エコー)

超音波検査は、体の表面から超音波を当て、内臓の状態を観察する検査です。肝臓、胆のう、膵臓、脾臓などの状態を調べることができます。

痛みもなく、放射線被ばくもない安全な検査です。脂肪肝、胆石、胆のうポリープ、肝腫瘍などの診断に役立ちます。

当院では高性能な超音波装置を導入しており、肝臓、胆嚢、膵臓の精査が可能です。

CT検査・MRI検査

CT検査は、X線を使って体の断層写真を撮影する検査です。肝臓、膵臓、胆のう、腸などの状態を詳しく調べることができます。

MRI検査は、強い磁気を使って体の断層写真を撮影する検査です。特に肝臓や胆道、膵臓の詳細な観察に適しています。

これらの検査は、腫瘍の有無や大きさ、周囲への広がりなどを調べるのに役立ちます。

当院では院内にCTを設置しており、必要に応じて速やかに検査を行うことができます。胸部CTは胸部レントゲン同等の被ばく量で検査できる点も特徴です。

症状別の自己チェックリスト

ここでは、主な消化器症状について、自己チェックリストを紹介します。該当する項目が多い場合は、消化器内科の受診を検討してください。

ただし、このチェックリストはあくまで目安です。心配な症状がある場合は、チェックリストの結果に関わらず、医療機関を受診することをお勧めします。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍チェックリスト

胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜が傷つき、くぼみ(潰瘍)ができる病気です。以下の症状がないか確認しましょう。

  • みぞおちの痛み(特に空腹時や食後)
  • 胸やけ
  • げっぷが多い
  • 吐き気がある
  • 嘔吐することがある
  • 胃もたれがする
  • 口臭が気になる
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 背中が痛い
  • 黒い便が出る
  • 吐血することがある

特に黒い便や吐血は、潰瘍からの出血を示す重篤なサインです。これらの症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。

逆流性食道炎チェックリスト

逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流することで、食道粘膜が炎症を起こす病気です。以下の症状がないか確認しましょう。

  • 胸やけがする(特に食後や横になったとき)
  • 酸っぱい液体が喉まで上がってくる
  • 胸の痛みがある
  • のどの違和感や痛みがある
  • 咳が続く(特に夜間)
  • 声がかすれる
  • 食べ物を飲み込みにくい
  • 食後に胃もたれがする
  • げっぷが多い
  • 口臭が気になる

これらの症状が週に2回以上ある場合や、3ヶ月以上続く場合は、消化器内科を受診しましょう。

過敏性腸症候群チェックリスト

過敏性腸症候群は、腸の機能に問題があり、腹痛や便通異常が起こる病気です。以下の症状がないか確認しましょう。

  • 腹痛がある(特に排便で軽減する)
  • 下痢と便秘を繰り返す
  • 便の形状が変わりやすい(硬い、柔らかい、水様など)
  • 便意を我慢できないことがある
  • 排便後も残便感がある
  • 腹部膨満感がある
  • おならが多い
  • 粘液便が出ることがある
  • ストレスで症状が悪化する
  • 食事で症状が変化する

これらの症状が3ヶ月以上続く場合は、消化器内科を受診しましょう。過敏性腸症候群は命に関わる病気ではありませんが、生活の質を大きく低下させることがあります。

「腸は第二の脳」と言われるほど、私たちの心と体に大きな影響を与えます。腸の健康を守ることは、全身の健康を守ることにつながります。

炎症性腸疾患チェックリスト

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)は、腸に慢性的な炎症が起こる病気です。以下の症状がないか確認しましょう。

  • 血便がある
  • 慢性的な下痢(1日4回以上、夜間も)
  • 腹痛がある
  • 体重減少
  • 発熱
  • 全身倦怠感
  • 関節痛
  • 肛門周囲の痛みや膿瘍
  • 口内炎が繰り返し起こる
  • 眼の炎症

これらの症状、特に血便が続く場合は、早めに消化器内科を受診しましょう。炎症性腸疾患は早期治療が重要です。

消化器内科受診の目安まとめ

消化器内科を受診すべき主な症状をまとめました。以下の症状がある場合は、消化器内科の受診を検討しましょう。

  • 1週間以上続く腹痛・胃痛
  • 24時間以上続く嘔吐、または血液が混じる嘔吐
  • 2週間以上続く下痢、または血液が混じる下痢
  • 3週間以上続く便秘、または急に始まった頑固な便秘
  • 血便・黒色便
  • 週に2回以上の胸やけや呑酸、または3ヶ月以上続く症状
  • 3ヶ月以上続く頻繁なげっぷや腹部膨満感
  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
  • 腹水(お腹に水がたまる)
  • 原因不明の体重減少
  • 50歳以上で急に始まった消化器症状

特に、血便・黒色便、黄疸、腹水などの症状は、重篤な疾患のサインであることが多いため、すぐに医療機関を受診してください。

また、症状が軽くても、長期間続く場合や、日常生活に支障をきたす場合は、早めに受診することをお勧めします。

消化器の病気は早期発見・早期治療が重要です。「様子を見よう」と思って放置していると、症状が悪化し、治療が難しくなることがあります。

当院では、患者さんの負担を軽減するため、鎮静剤を使用した無痛の内視鏡検査や、初診当日の検査、土曜日の検査にも対応しています。消化器の不調でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

健康な消化器は、健康な生活の基盤です。少しでも気になる症状があれば、専門医に相談することが、あなたの健康を守る第一歩となります。

詳細はこちら:石川消化器内科・内視鏡クリニック

 

 

 

 

 

 

 

 

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

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