胃カメラ検査の嘔吐反射に悩む患者さんへ
胃カメラ検査と聞いて、「オエッ」となる不快な嘔吐反射を思い浮かべる方は少なくありません。消化器内科医として多くの内視鏡検査を行ってきた経験から言えることですが、この検査に対する不安や恐怖感が、適切な時期の検査を避ける原因になっていることを日々感じています。
胃の不調を感じているにもかかわらず、「胃カメラが怖い」という理由だけで検査を先延ばしにしてしまうのは、健康管理の観点からも非常にもったいないことです。
近年、医療技術の進歩により、胃カメラ検査は昔に比べてはるかに受けやすくなっています。特に嘔吐反射の軽減に関しては、さまざまな新しい技術やアプローチが開発されています。
胃カメラ検査で嘔吐が起こるメカニズム
まず、なぜ胃カメラ検査中に「オエッ」となってしまうのか、そのメカニズムを理解しておくことが大切です。
嘔吐反射は、本来、私たちの体を守るための防御反応です。喉の奥(咽頭)に異物が入ると、それを排除しようとする反射が自然と起こります。胃カメラが口から入ると、のど・食道・胃・十二指腸の順番で進んでいきますが、特にのどを通過する際に、この防御反射が強く働くのです。
食道に異物が入ることを防ぐ反射を嘔吐反射と呼び、これが「オエッ」という不快な感覚の正体です。この反射は人によって感度が異なり、非常に敏感な方もいれば、比較的鈍感な方もいます。
また、緊張や不安が強いと、この反射がさらに敏感になることも分かっています。つまり、「胃カメラは苦しい」と思い込んで緊張すればするほど、実際に嘔吐反射が起こりやすくなるという悪循環に陥ってしまうのです。

では、この嘔吐反射を抑え、より快適に胃カメラ検査を受けるための最新技術とコツを見ていきましょう。
嘔吐を防ぐ最新技術①:経鼻内視鏡
従来の胃カメラは口から挿入するタイプ(経口内視鏡)が一般的でしたが、近年では鼻から挿入する経鼻内視鏡が普及してきています。
経鼻内視鏡の最大のメリットは、口から挿入する場合と比較して嘔吐感が大幅に軽減されることです。鼻から挿入することで、喉の嘔吐反射が起こりにくくなるのです。
経鼻内視鏡は、直径5.4mm程度と非常に細いスコープを使用するため、挿入時の違和感も少なくなっています。鼻の奥に専用のゼリー状の麻酔を塗ることで、痛みもほとんど感じることなく検査を受けることができます。
ただし、経鼻内視鏡にもいくつか注意点があります。鼻の奥が生まれつき狭い方や、アレルギーなどで腫れている場合は、挿入時に痛みや出血が生じることがあります。また、鼻や喉への局所麻酔が苦手な方もいらっしゃいます。
当院では患者さんの状態に合わせて、経口・経鼻どちらの胃カメラも選択できるようにしています。事前の診察で、どちらの方法が適しているかを丁寧に説明し、患者さんと相談しながら決めていきます。
嘔吐を防ぐ最新技術②:鎮静剤の使用
近年、胃カメラ検査の際に鎮静剤を使用することが一般的になってきました。鎮静剤を使用すると、半分眠ったような状態で検査を受けることができるため、嘔吐反射や不安感を大幅に軽減することができます。
鎮静剤は点滴から投与され、数分で効果が現れます。完全に意識がなくなる全身麻酔とは異なり、意識はぼんやりと保たれた状態になります。検査中の記憶があいまいになることが多く、「あっという間に終わった」という感想をいただくことがほとんどです。
鎮静剤のメリットは、嘔吐反射が抑えられるだけでなく、身体の力が自然と抜けるため、検査がスムーズに進むことです。また、喉への局所麻酔も不要になるので、麻酔アレルギーがある方にも安心して受けていただけます。
当院では患者さんごとに適切な量の鎮静剤を微調整しながら投与しますので、「検査途中で目が覚めてしまった」ということもほとんどありません。鎮静剤を使用することで、経口内視鏡でも嘔吐反射をほぼ感じることなく検査を受けていただけます。
ただし、鎮静剤を使用する場合は、検査後30分〜1時間程度の休憩が必要になります。また、当日は車の運転や自転車の使用、重要な判断や契約行為などは避けていただく必要があります。

どうしても不安な方や、過去に辛い経験をされた方には、積極的に鎮静剤の使用をお勧めしています。
嘔吐を防ぐ最新技術③:超細径スコープ
内視鏡技術の進歩により、スコープ(胃カメラの管)はどんどん細くなってきています。従来の経口内視鏡は直径9〜10mm程度でしたが、最新の超細径スコープは直径5.9mm程度まで細くなっています。
スコープが細くなることで、喉を通過する際の違和感や圧迫感が大幅に軽減され、嘔吐反射も起こりにくくなります。特に経鼻内視鏡では直径5.4mm程度の非常に細いスコープを使用するため、挿入時の違和感をさらに軽減することができます。
当院では、他の医療機関で使用されているスコープよりも細いものを使用しており、胃カメラが喉を通る時の苦しさを軽減しています。また、超高精細な画像を提供する最新の内視鏡システムを導入しているため、スコープが細くなっても診断の精度は落ちません。
特殊な光によって粘膜の微細な変化まで観察できる拡大内視鏡も導入しており、大学病院に劣らない高精度な検査を実現しています。
嘔吐を防ぐ最新技術④:ウォータージェット機能
最新の内視鏡には、ウォータージェット機能が搭載されています。これは、内視鏡の先端から水を直接噴射できる機能で、胃の中の洗浄や視野の確保に役立ちます。
従来の内視鏡検査では、胃の中の泡や粘液を洗い流すために、検査前に消泡剤や粘液除去剤を飲んでいただく必要がありました。しかし、ウォータージェット機能を使えば、内視鏡で観察しながら直接胃の中に薬剤を入れたり、水で胃内の洗浄・吸引を短時間で行ったりすることができます。
これにより、検査前の準備が簡略化され、患者さんの負担が軽減されます。また、検査中に胃の中をより清潔に保つことができるため、より精度の高い観察が可能になります。
当院では、ウォータージェット機能を搭載した最新の内視鏡システムを導入しており、より快適で効率的な検査を提供しています。
胃の中に空気を入れすぎると膨満感やげっぷが生じやすくなりますが、ウォータージェット機能を使うことで必要最小限の空気で検査を行うことができ、検査後の不快感も軽減されます。
嘔吐を防ぐ最新技術⑤:内視鏡挿入形状観測装置(UPD)
内視鏡挿入形状観測装置(UPD:Ultrasound Probe Detector)は、内視鏡の挿入状態をリアルタイムでモニターに表示する装置です。これにより、医師は内視鏡がどのように体内で曲がっているかを視覚的に確認しながら操作することができます。
UPDを使用することで、内視鏡の無理な屈曲や過度な圧迫を避けることができ、患者さんの負担を軽減することができます。特に大腸内視鏡検査では効果を発揮しますが、上部消化管内視鏡(胃カメラ)においても、食道や胃への挿入をよりスムーズに行うことができます。
当院では、熟練した技術に加え、UPDなどの最新技術を駆使して、できる限り痛みのない、苦しくない内視鏡検査を心がけています。
胃カメラをスムーズに受けるための5つのコツ
最新技術の活用に加えて、患者さん自身ができる工夫もあります。以下に、胃カメラをよりスムーズに受けるためのコツをご紹介します。
コツ①:リラックスする・肩の力を抜く
検査台に乗ったら、まずはリラックスすることを意識しましょう。特に肩の力を抜くことが重要です。肩に力が入ると喉が締まりやすくなり、胃カメラが入りにくくなってしまいます。
検査直前に大きく深呼吸をすると効果的です。鼻からゆっくり吸って、口から「ハー」と吐く呼吸を3回程度繰り返してみましょう。大きく吸って、大きく吐くのがコツです。
また、検査中も静かな呼吸を続けることで、体の緊張を和らげることができます。

コツ②:正しい姿勢をとる
検査中は、顎を突き出し、頬は枕にしっかりとつけるようにしましょう。視線はやや左に向け、ベッドを見るような感じにします。
顎を突き出すことで、胃カメラが入る時の抵抗感を軽減することができます。また、視線をやや下げることで、唾液が気管に流れ込むのを防ぐことができます。
お尻を後ろに突き出し、上体はやや前傾姿勢になるようにすると、「く」の字の姿勢になり、胃カメラの挿入がスムーズになります。
コツ③:唾液は飲み込まない
検査中、唾液は飲み込まないで、だらだらと口の外に出すようにしましょう。喉に麻酔をかけると、飲み込んだ唾などが気管に入りやすくなります(誤嚥)。誤嚥するとむせて苦しくなってしまうので、唾液は飲み込まないことが大切です。
心配いりません。顔の下にシートや受け皿を用意するので、衣服が汚れることはありません。
コツ④:検査中は目を閉じない
検査中は目を閉じないで、遠くを見つめる感じでいましょう。目を閉じてしまうと、意識がどうしても咽頭に集中してしまい、オエッとなりやすくなってしまいます。
また、目を開けておけば視覚が遮られないので、パニックになりにくくなります。リラックスして、何か別のことを考えるようにすると良いでしょう。
コツ⑤:ゲップを我慢する
検査の中盤以降、胃の観察のためにカメラから送気して胃を膨らませます。少しお腹が張った感じになりますが、1〜2分程度なのでなるべくゲップを我慢しましょう。
うまく我慢できると検査が早く終わります。胃の中の空気は検査後に自然と出ていきますので、ご安心ください。
胃カメラ検査前の準備と注意点
胃カメラ検査をスムーズに受けるためには、事前の準備も重要です。以下に、検査前の注意点をまとめました。
食事について
胃の中をくまなく観察するためには、胃の中に食事の残りがないことが重要です。そのため、以下のポイントに注意してください。
・前日の夕食は、遅くても夜9時には済ませましょう
・消化の良いものを選びましょう(ワカメやこんにゃくなどは胃の中に残りやすいので避けましょう)
・検査当日は、朝食を摂らずにお越しください
・水は飲んでいただいて構いませんが、ジュースや牛乳など色のついた飲み物は控えましょう
お薬について
普段服用しているお薬がある場合は、事前に医師に相談してください。特に以下のようなお薬は注意が必要です。
・抗血小板剤・抗凝固薬(血液をさらさらにする薬):通常の検査では継続していただくことが一般的ですが、何か処置をする場合は休薬していただくこともあります
・糖尿病のお薬:検査当日は休薬していただくことが一般的です
どのようなお薬を飲んでいるか、医師・看護師で確認しますので、お薬手帳をお忘れなくご持参ください。
当日の服装
検査当日は、リラックスできる楽な服装でお越しください。特に首元や胸元を圧迫しない服装が望ましいです。また、アクセサリー類(特にネックレス)は外していただく場合があります。
女性の方は、口紅やリップクリームは控えていただくと、検査がスムーズに進みます。
まとめ:安心して胃カメラ検査を受けるために
胃カメラ検査は、食道・胃・十二指腸の病変を早期に発見するための非常に重要な検査です。しかし、「辛い・苦しい」というイメージが先行し、検査を避けてしまう方が多いのが現状です。
今回ご紹介した5つの最新技術(経鼻内視鏡、鎮静剤、超細径スコープ、ウォータージェット機能、UPD)と5つのコツ(リラックスする、正しい姿勢をとる、唾液は飲み込まない、目を閉じない、ゲップを我慢する)を活用することで、胃カメラ検査はかなり楽に受けられるようになっています。
当院では、これらの技術を駆使して、「より気軽に」「よりスピーディーに」、そして安心して検査を受けていただけるよう、さまざまな工夫を行っています。初診当日や土曜日の検査にも対応しており、お忙しい方でも無理なく検査を受けていただけます。
胃の調子が気になる方、ピロリ菌感染が判明した方、過去に胃カメラで辛い思いをした方も、ぜひ一度ご相談ください。最新の技術と丁寧な対応で、これまでとは違う胃カメラ体験をご提供いたします。
健康管理のためにも、定期的な胃カメラ検査をお勧めします。胃の健康は、あなたの毎日の生活の質に大きく関わります。不安なことがあれば、どうぞお気軽に石川消化器内科・内視鏡クリニックまでご相談ください。

著者情報
石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)
経歴
平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院









