コラム

2025.08.21

雇入れ時健康診断とは?義務と実施方法を完全解説

雇入れ時健康診断の基本と法的義務

雇入れ時健康診断とは、企業が新たに従業員を雇い入れる際に実施が義務付けられている健康診断です。労働安全衛生法に基づき、労働者の安全と健康を守るために設けられた重要な制度となっています。

この健康診断は、新しく雇用する従業員の健康状態を把握し、適切な職場配置や健康管理に役立てることが目的です。単なる形式的な手続きではなく、従業員の健康を守り、企業の安全配慮義務を果たすための重要なステップなのです。

雇入れ時健康診断は、労働安全衛生規則第43条において「事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならない」と明確に規定されています。この規定に違反した場合、労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰則が科される可能性もあるため、企業側は確実に実施する必要があります。

消化器内科医としての経験から申し上げると、健康診断は病気の早期発見・早期治療につながる重要な機会です。特に新たに職場に入る方々にとっては、これから長く働く環境で健康を維持するための第一歩となります。

 

雇入れ時健康診断の対象者と実施時期

雇入れ時健康診断の対象となるのは「常時使用する労働者」です。これは正社員だけでなく、一定の条件を満たすパートタイマーやアルバイトも含まれます。

具体的には、以下のいずれかに該当し、かつ1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上である場合は、健康診断を実施する必要があります。

  • 雇用期間の定めのない者
  • 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上使用される予定の者
  • 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上引き続き使用されている者

例えば、正社員の労働時間が週40時間の企業であれば、週30時間以上勤務するパートタイマーやアルバイトも対象となります。なお、4分の3未満であっても、週の所定労働時間が通常の労働者のおおむね2分の1以上であれば、健康診断の実施が望ましいとされています。

実施時期については、「雇入れるとき」と規定されていますが、具体的には雇入れの直前または直後が適切とされています。明確な期限は定められていませんが、雇入れ前後3ヶ月以内の実施が望ましいと考えられます。

臨床現場で多くの健康診断を担当してきた経験から言えることですが、入社直後は業務に慣れることで精一杯になりがちです。そのため、可能であれば入社前、あるいは配属前に健康診断を済ませておくことをお勧めします。

また、入社前3ヶ月以内に医師による健康診断を受けた結果を提出できる場合は、その項目については雇入れ時健康診断を省略することができます。これは求職者の負担軽減にもつながる重要なポイントです。

雇入れ時健康診断の検査項目と特徴

雇入れ時健康診断では、労働安全衛生規則第43条に基づき、以下の11項目について検査を行うことが義務付けられています。

  • 既往歴及び業務歴の調査
  • 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  • 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  • 胸部エックス線検査
  • 血圧の測定
  • 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
  • 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
  • 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  • 血糖検査
  • 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無)
  • 心電図検査

これらの項目は、年に1回行われる定期健康診断とほぼ同じですが、いくつか重要な違いがあります。

まず、定期健康診断では医師の判断により一部の検査項目を省略できますが、雇入れ時健康診断では全項目の実施が必須です。また、定期健康診断では胸部エックス線検査に加えて喀痰検査が含まれることがありますが、雇入れ時健康診断では喀痰検査は含まれません。

消化器内科医の立場から特に注目すべきは、肝機能検査や血中脂質検査です。これらの検査結果は、脂肪肝や脂質異常症などの生活習慣病の早期発見につながります。また、血糖検査は糖尿病のリスク評価に重要で、尿検査は腎機能の基本的な評価ができます。

健康診断の実施方法としては、事業所が医療機関と契約して一斉に受診させる方法と、従業員が個別に医療機関で受診する方法があります。個別受診の場合は、検査項目の漏れや受診遅延が生じやすいため、企業側は項目や期日の通知だけでなく、予約や受診状況の確認など細やかなフォローが必要です。

 

雇入れ時健康診断の目的と位置づけ

雇入れ時健康診断の主な目的は、労働者を適切な職場に配置するための情報収集と、入社後の健康管理の基礎データを得ることにあります。ここで非常に重要なのは、雇入れ時健康診断の結果を採用の判断材料にしてはならないという点です。

厚生労働省は「採用選考時に同規則を根拠として採用可否決定のための健康診断を実施することは適切さを欠くもの」としています。つまり、企業の採用担当者が求職者の健康診断結果をみて、それだけを理由に不採用にすることは不適切な行為とされています。

雇入れ時健康診断は労働安全衛生法に基づく一般健康診断の一つです。一般健康診断には、雇入れ時健康診断のほかに、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、海外派遣労働者の健康診断、給食従業員の検便などがあります。

医師として強調したいのは、健康診断は単なる法的義務の履行ではなく、従業員の健康を守るための重要な機会だということです。特に生活習慣病は初期には自覚症状がほとんどないため、健康診断による早期発見が非常に重要です。

また、雇入れ時健康診断の結果は、その後の定期健康診断と比較することで、職場環境が従業員の健康に与える影響を評価する基準にもなります。このように、雇入れ時健康診断は従業員の健康管理における出発点として重要な位置を占めているのです。

雇入れ時健康診断の費用と実施手順

雇入れ時健康診断の費用は、全額を事業者が負担することになっています。これは公的医療保険の対象外であり、いわゆる「保険がきかない検査」となるためです。企業は労働者に雇入れ時健康診断の費用を請求したり負担させたりしてはいけません。

健康診断の費用は医療機関によって異なりますが、一般的には1人あたり1万円前後が相場です。検査項目の追加や詳細な検査を行う場合は、さらに費用が増加することもあります。

雇入れ時健康診断の実施手順としては、まず対象となる従業員を特定し、健康診断を実施する医療機関を選定します。次に、従業員に健康診断の日程や場所、準備事項などを通知します。健康診断実施後は、結果を記録し、必要に応じて医師の意見を聴取します。

私が院長を務める医療機関でも企業の健康診断を多数実施していますが、スムーズな実施のためには事前の準備が重要です。特に、従業員への説明や当日の流れの確認など、細かな配慮が必要になります。

また、健康診断の結果は「健康診断個人票」として5年間保存することが義務付けられています。近年はデータでの保存も認められており、2025年1月からは健康診断結果報告の電子申請が義務化されることもあり、データ管理の重要性が高まっています。

健康診断結果の取り扱いには注意が必要です。健康診断の結果は「要配慮個人情報」に該当するため、適切な管理が求められます。特に、第三者への提供には本人の同意が必要となります。

雇入れ時健康診断後の措置と注意点

雇入れ時健康診断を実施した後は、いくつかの措置を講じる必要があります。まず、健康診断の結果を受診者全員に通知することが義務付けられています。また、健康診断の結果に基づいて、医師等からの意見を聴取し、必要に応じて就業上の措置を講じなければなりません。

特に注意が必要なのは、健康診断で異常所見が認められた場合の対応です。二次検査が必要と判断された従業員には、再検査を受けるよう促すことが重要です。

雇入れ時健康診断を実施した場合、その後1年間は定期健康診断を省略することができます。ただし、特定業務に従事する労働者については、配置後6ヶ月以内に特殊健康診断を実施する必要があります。

消化器内科医としての経験から申し上げると、健康診断で異常所見が見つかった場合、早期に専門医を受診することが非常に重要です。特に消化器系の異常は、早期発見・早期治療により予後が大きく改善することが多いです。

また、企業側としては、健康診断の結果を単に記録するだけでなく、従業員の健康管理に積極的に活用することが望ましいです。例えば、生活習慣病のリスクが高い従業員には、保健指導を行うなどの支援が効果的です。

健康診断の結果は、個人の健康状態を示す重要な情報であると同時に、企業全体の健康課題を把握するためのデータでもあります。従業員の健康状態を分析し、職場環境の改善や健康増進施策の立案に活用することで、企業全体の健康レベルの向上につなげることができます。

まとめ:雇入れ時健康診断の重要性と適切な実施

雇入れ時健康診断は、労働安全衛生法に基づく企業の義務であり、従業員の健康管理の第一歩となる重要な制度です。常時使用する労働者を雇い入れる際には、11項目の法定検査を含む健康診断を実施し、その結果を適切に管理・活用することが求められます。

実施対象は正社員だけでなく、一定条件を満たすパートタイマーやアルバイトも含まれます。実施時期は雇入れの前後3ヶ月以内が望ましく、費用は全額事業者負担となります。

雇入れ時健康診断の目的は採用判断ではなく、適正配置や健康管理にあります。健康診断の結果は5年間保存する義務があり、2025年1月からは結果報告の電子申請が義務化されます。

医師として強調したいのは、健康診断は単なる法的義務の履行ではなく、従業員の健康を守るための重要な機会だということです。特に生活習慣病は初期には自覚症状がほとんどないため、健康診断による早期発見が非常に重要です。

企業と従業員が共に健康管理の重要性を認識し、雇入れ時健康診断を適切に実施・活用することで、働きやすい職場環境の構築と生産性の向上につなげることができるでしょう。

健康診断でお悩みの方は、ぜひ専門医にご相談ください。当院では各種健康診断も実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

詳細は石川消化器内科・内視鏡クリニックのホームページをご覧ください。

著者情報

石川消化器内科・内視鏡クリニック
院長 石川 嶺 (いしかわ れい)

経歴

平成24年 近畿大学医学部医学科卒業
平成24年 和歌山県立医科大学臨床研修センター
平成26年 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
平成29年 近畿大学病院 消化器内科医局
令和4年11月2日 石川消化器内科内視鏡クリニック開院

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